先日、年商3億円の建設業を営むオーナー社長から、こんな相談を受けました。「個人で収益物件を持っているんですが、法人に移すべきでしょうか?」と。

話を深掘りしていくと、問題の輪郭が見えてきました。不動産関連の支出がすべて個人の確定申告に流れていて、法人の利益をまったく圧縮できていなかったのです。「法人で不動産を持つ」という一手を打つだけで、使える経費が劇的に変わる——その事実を知らずに、何年も損をし続けていたわけです。

個人と法人、経費の「流れ先」がまるで違う

個人で不動産を所有している場合、家賃収入から引ける経費は「不動産所得」の計算にしか使えません。法人税を減らす効果はゼロです。いくら個人の不動産収支を黒字にしても、本業の法人がガッツリ課税されていたら意味がありません。

一方、法人が不動産を所有すると話が変わります。建物の購入代金を毎年少しずつ経費化できる「減価償却費」が、そのまま法人の利益を削る武器として機能します。たとえば築20年の建物を5000万円で取得した場合、償却期間によっては年100万円超が経費になることも珍しくありません。

修繕費・管理費・火災保険料・借入利息も、すべて法人の経費として計上できます。これが積み重なると、侮れない金額になってきます。

「役員社宅制度」がひそかに最強な理由

個人的に最も活用の余地があると感じるのが、役員社宅制度です。仕組みはシンプルで、会社が不動産を借り上げ(または所有し)、それを役員に社宅として提供します。役員が会社に支払う賃料は、国税庁が定める計算式で算定した少額でOK。その差額がそのまま会社の経費になります。

具体的なイメージとして、月20万円の賃貸物件を会社が借り上げ、役員が会社へ支払う賃料が月2万円だったとします。差額の月18万円、年間で216万円が会社の経費になる計算です。社長が毎月払っている自宅家賃を、会社の経費として落とせるわけです。

ただし、役員側の賃料が不当に低いと「現物給与」として認定されるリスクがあります。国税庁通達の計算式に沿った適正額の算定は必須です。それでも、個人負担を大幅に抑えながら法人の経費を増やせるのは変わりません。

年500万円の経費増は「絵空事」ではない

各項目をまとめて試算すると、こんな数字が見えてきます。

  • 建物の減価償却費:年120万円
  • 修繕費・管理費・保険料:年60万円
  • 借入利息:年80万円
  • 役員社宅の差額家賃:年216万円

合計で476万円。物件の規模や借入条件によっては、年500万円を軽く超えることも現実的な数字です。実効税率34%で計算すると、この500万円の経費増は約170万円の税負担減に直結します。毎年170万円が手元に残るか消えるかの差を、10年単位で考えると1700万円。これを「誤差の範囲」と言える人はなかなかいないはずです。

やる前に押さえたい3つの注意点

とはいえ、何でもかんでも経費になるわけではありません。実務でよく引っかかるポイントを整理しておきます。

実態のない経費は通らない。 会社名義であっても、事業目的のない使用は経費として認められません。「社宅」と称した事実上の別荘は、税務調査で必ず突かれます。

役員賃料の設定は通達どおりに。 前述のとおり、社長が支払う賃料が低すぎると現物給与認定のリスクがあります。計算式に基づいた適正額の設定は専門家と確認してください。

法人維持コストとのバランスを確認する。 法人を設立・維持するためのコスト(社会保険料の増加、税理士費用など)は年数十万円規模になります。節税効果がそれを上回るかどうか、事前にシミュレーションしておくことが大前提です。

今の不動産を「棚卸し」するところから始める

既に個人名義で不動産を持っている方は、法人への移転も選択肢になります。ただし個人→法人への移転は「売買」として扱われるため、タイミングや価格設定によっては譲渡所得税が発生する点に注意が必要です。

これから物件を購入する予定があるなら、最初から法人名義で取得するほうがシンプルです。いずれのケースも、「今の状況で何が最も有利か」を税理士とシミュレーションするのが一番の近道です。

法人を持っているのに不動産はまだ個人名義、という方は、今期中に一度整理してみることをおすすめします。動き出すのが早いほど、節税効果が出始めるタイミングも早くなります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。