先日、法人成りして2年目の社長からこんな相談を受けました。「法人にすれば節税できると聞いていたのに、税理士の試算ではあまり変わらなくて……」

実はこのケース、とてもよくある話です。法人にするだけでは節税にはなりません。法人だからこそ使える経費を「意図的に」組み込んで初めて、個人では到底届かなかった節税が実現します。

個人事業主には永遠に使えない経費がある

税法には、法人にだけ認められた経費というものが存在します。個人事業主がどれだけ頑張っても、制度上そもそも使えないカテゴリーです。

代表的なものを挙げると、役員社宅・出張日当・役員退職金の積立・社用車・経営セーフティ共済・法人保険・福利厚生費——この7つ。どれも耳にしたことはあると思いますが、「全部ちゃんと使えているか」という話になると、意外と手をつけていない社長が多い印象です。

「出張日当」は非課税のまま会社の経費になる

まず即効性が高いのが、出張日当です。

会社の旅費規程を整備すれば、役員や従業員の出張に対して「日当」を支払えます。受け取る側は所得税がかかりません。そして会社側では全額経費として計上できる。双方にとってメリットがある珍しい制度です。

出張が月に3〜4回ある社長なら、日当を1日5,000円〜1万円で設定するだけで、年間数十万円の経費が積み上がります。旅費規程を作っていない会社は、今期中に整備するだけで節税効果が出ます。

「役員社宅」は家賃の大半を会社負担にできる

次に強力なのが、役員社宅の活用です。

会社が賃貸物件を契約し、それを役員に転貸する形を取れば、家賃の相当部分——条件によっては7〜9割程度——を会社の経費にできます。役員個人が負担するのはごく一部でよく、差額が実質的な節税になります。

自分の給与から毎月20万円の家賃を払っていた社長が役員社宅に切り替えると、手取りが増えながら会社の経費も増える、という二重の効果が生まれます。

組み合わせると年間100〜200万円になる

出張日当と役員社宅だけでもインパクトがありますが、さらに経営セーフティ共済・法人保険・社用車・福利厚生費を組み合わせると、経費計上額はぐっと積み上がります。

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は年間最大240万円の掛け金が全額損金になります。法人保険も商品によっては保険料の一部を損金に算入できます。これらを適切に組み合わせると、年間100万〜200万円の追加経費計上は、決して非現実的な数字ではありません。

「経費200万円」は「節税200万円」ではない

ここで一つ、大事な補足をさせてください。

「経費が200万円増えた=税金が200万円減った」ではないんです。節税効果は「経費の増加額×実効税率」で計算されます。中小企業の実効税率はおおよそ34%前後なので、200万円の追加経費が生み出す節税効果は約68万円。

決して小さな金額ではありませんが、「200万円まるまる得をする」という感覚とは少し違います。誤解したまま進むと、期待値とのギャップで混乱することがあるので注意が必要です。

それでも、個人事業主には作れない節税です。法人だからこそ、この仕組みを使う権利がある。

「後でやろう」が一番もったいない

これだけの手が使えるのに活用されていない理由の多くは、「後回し」です。

旅費規程の整備も役員社宅の切り替えも、決算直前では間に合わないことがあります。特に経営セーフティ共済は加入から1年経たないと解約時のメリットが使えないため、早めに手を打つほど効果が高い制度です。

まだ何も手をつけていないなら、まず顧問税理士に「今期、追加で使える経費はありますか?」と一言聞いてみてください。その一言が、数十万円の節税につながることがあります。少なくとも旅費規程だけでも、今期中に整備しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。