「社長、今の家賃は毎月ご自身の口座から払っていますか?」

先日、都内で会社を経営されている50代の社長とお話しする機会がありました。月12万円のマンションに住んでいらっしゃって、「当然、個人負担ですよ」とおっしゃっていました。

そこで「それ、全額個人負担じゃなくていいかもしれません」とお伝えしたところ、最初は「え、どういうことですか?」という反応でした。使える制度を知っているかどうかで、毎年数十万円の差が生まれることがあります。それが「役員社宅」です。

仕組みはシンプル。会社が借りて、役員に転貸するだけ

やることは難しくありません。会社が物件を直接借り上げて、それを役員に「転貸」する形をとるだけです。そうすることで、家賃の大部分が会社の損金(経費)として計上できるようになります。

肝になるのは、役員が会社に支払う「賃貸料相当額」という金額の設定です。これは国税庁の通達に基づいて計算されるもので、実際の家賃とはかなり乖離することがあります。物件の固定資産税評価額や床面積をベースにするため、市場家賃よりも大幅に低くなるケースが珍しくありません。

月12万の家賃が、実質2万円になる?

具体的な数字で見てみましょう。

月12万円のマンションを会社が借り上げたとします。その物件の賃貸料相当額を計算すると、規模や評価額によっては月2万円程度になることがあります。役員は会社にその2万円を支払えばよく、差額の10万円は会社の経費になります。

年間に換算すると、経費が120万円増えることになります。法人税の実効税率が30%なら、年間36万円の節税効果です。10年続ければ360万円。何もしなければそのまま税金として払っていたお金が、手元に残ります。

知っているかどうかだけの差で、これだけの金額が変わってくる。これが節税の本質だと思っています。

税務署は教えてくれない。でも、違法でも脱税でもない

税務署は申告された内容に基づいて税を徴収します。使える制度を積極的に案内するインセンティブはありません。だからこそ「税務署が教えてくれない節税」として知られているわけです。

ただ、役員社宅は完全に合法です。国が認めた制度であり、大企業では福利厚生として当たり前に活用されています。個人事業主から法人化したばかりの社長さんに浸透していないのは、単純に「知らないから」という理由がほとんどです。

設計を誤ると「給与」として課税される

ここが一番大切な注意点です。

役員が支払う賃貸料相当額を「正しい計算式で算出していない」場合、その差額が役員給与として課税されるリスクがあります。節税のつもりが、思わぬ課税リスクを抱えることになりかねません。

賃貸料相当額の計算には、物件の固定資産税評価額が必要です。賃貸物件の場合は大家さんから取得しなければなりませんが、教えてもらえないケースもあります。また、そもそも会社名義で賃貸借契約を結んでいることが前提なので、すでに個人で契約している物件をそのまま転用することはできません。

適用を考えるなら、引越しや契約更新のタイミングが狙い目です。

今すぐ確認したい3つのこと

役員社宅の導入を検討する前に、まず次の点を整理してみてください。

  • 現在の賃貸借契約の名義は個人か、法人か
  • 住んでいる物件の固定資産税評価額を大家さんから取得できるか
  • 近く引越しや更新のタイミングがあるか

これらが整えば、あとは顧問税理士と具体的な設計を詰めるだけです。賃貸料相当額の正確な計算と、契約書の整備が実務上のポイントになります。

毎月12万円を個人で払い続けるか、会社の経費として落とすか。どちらを選ぶかで、年間36万円の差が生まれます。まだ役員社宅を活用していないなら、次の更新タイミングや決算前に一度、顧問税理士に相談してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。