先日、年商3億円の建設会社を経営するKさんから、こんな相談を受けました。「マンションを2棟個人で持っているんですが、税金が思ったより重くて……。法人に移したほうがいいですか?」

不動産を法人に売却するのはハードルが高い。でも個人で持ち続けると税負担が重い。そのジレンマを抱える社長は、実は少なくありません。今日お伝えするのは、不動産を売却せずに経費の幅を大きく広げる手法——「不動産管理法人」という選択肢です。

個人所有だと経費が少ない、という現実

個人で不動産を持つ場合、経費として認められるものは限られています。固定資産税、修繕費、ローンの利息、減価償却費、管理会社への手数料、火災保険料——だいたいこのあたりが上限です。

賃料収入が年600万円あっても、これらを差し引いた後の不動産所得が300〜400万円残れば、累進課税でかなりの税金が持っていかれます。事業所得と合算されて課税所得が膨らむ社長なら、実効税率45〜55%という世界も珍しくありません。

「これ以上、経費に使えるものはない」——そう思っていた方に知っておいてほしい仕組みがあります。

不動産管理法人という「器」を作る

不動産管理法人とは、自分の不動産の管理業務を担う法人のことです。建物ごと法人に売るわけではありません。あくまで「管理業務を法人に委託する」という形をとります。

個人オーナーから管理法人に、賃料収入の一定割合を管理料として支払います。実務上は賃料の10〜15%程度が合理的とされており、管理業務の実態があれば税務上も認められます。

年間の賃料収入が600万円なら、管理料は最大90万円。この90万円が法人側の売上になります。個人側では90万円が経費になり、その分だけ課税所得が圧縮されます。

「経費3倍」の正体はここにある

法人側の話が面白いところです。管理法人の売上は90万円ですが、法人という器を使うと個人では使えなかった経費が活きてきます。

たとえば、オーナー自身や配偶者を役員にして役員報酬を支払えば、給与所得控除が使えるため所得税の節税になります。法人が社宅を借りて役員に転貸する形にすれば、家賃の大部分を法人経費にできます。車両費や通信費も、管理業務に関連していれば経費計上の幅が広がります。

個人では「不動産収入の経費」として認められなかったものが、法人を介することで一気に経費化できる——これが「経費3倍」と言われる実態です。固定資産税と修繕費しか使えなかった個人と比べると、法人側で使える経費の種類が格段に増えます。

節税効果を数字で確認する

具体的に試算してみましょう。賃料年収600万円、管理料15%の90万円を法人に流すケースです。

個人側では90万円が経費になります。実効税率50%の社長なら、それだけで45万円の節税。一方、法人側では90万円の売上に対して役員報酬や社宅費を経費に使い、残った利益に法人税(実効税率22〜34%程度)がかかります。うまく設計できれば法人税の負担は軽く抑えられます。

単純計算ではありませんが、このスキームが機能すると年間20〜40万円規模の節税になるケースは十分あります。10年単位で見れば、200〜400万円の差になる計算です。

「形だけ法人」は必ず否認される

ここは絶対に外せない注意点です。不動産管理法人は、実態のある管理業務があってはじめて認められます。

書類上だけ管理料を支払っていると、税務調査で「業務の実態がない」として否認されるリスクがあります。入居者対応の記録、建物点検の手配履歴、修繕業者との連絡メール——こうした業務を法人が実際に担っているエビデンスを残すことが大前提です。

また、管理料の割合も慎重に設定してください。15%を超えると合理性の説明が難しくなります。地域の相場や物件の状況によって適正な割合は異なるため、具体的な数字は必ず税理士と相談しながら決めてください。

複数物件を持つなら、早めに設計する

管理法人の効果が出始めるのは、賃料収入が年間500万円を超えてきたあたりからです。それ以下の規模では、設立・維持コストに見合わないこともあります。

逆に、不動産を2棟・3棟と増やしていく計画があるなら、早い段階で管理法人という器を作っておくほうが得策です。物件が増えるたびに個人の税負担が膨らんでから設計しようとすると、話が複雑になります。

まだ個人で不動産を持っていて「法人化は物件を売却しないといけないんでしょ?」と思っていた社長は、ぜひ管理法人という選択肢を頭に入れておいてください。次の決算の前に、一度税理士に試算を依頼してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。