先日、ある社長からこんな相談を受けました。「自分の名義でアパートを持っているんですが、何か問題ありますか?」と。聞けば年間1,000万円近い家賃収入があるとのこと。

それを聞いた瞬間、正直「もったいないな」と思いました。

個人名義で不動産を持つと税率はどこまで上がるか

個人で不動産を持っている場合、家賃収入は「不動産所得」として総合課税の対象になります。つまり、役員報酬と合算して税率が決まるということです。

役員報酬が2,000万円あって、不動産収入が1,000万円あれば、合計3,000万円に対して課税されます。この水準になると所得税率は45%、住民税を加えると実効税率は50%を超えてきます。

年間1,000万円の不動産収入のうち、500万円以上が税金に消える計算です。「稼いでも稼いでも半分持っていかれる」という感覚、まさにそれです。

法人で持つと何がどう変わるか

同じ不動産を法人で保有した場合、話がガラリと変わります。

法人税・法人住民税・事業税を合わせた実効税率は、おおよそ34%前後。同じ1,000万円の収入に対する税負担は約340万円です。

個人との差額を計算すると、年間で160〜200万円以上の違いが出てきます。10年続ければ、2,000万円の差になる計算です。冒頭の社長は「えっ、それ本当ですか?」と目を丸くしていました。

法人化でさらに広がる節税の選択肢

法人保有にすると、税率の差だけではなく、追加の節税手段も使えるようになります。

たとえば、不動産収入を役員報酬として配偶者や子どもに分散することができます。家族への報酬には給与所得控除が適用されるので、所得の分散効果は二重になります。専業主婦の奥さまに月20万円の役員報酬を払うだけで、年間240万円の所得が低税率で課税される計算です。

また、不動産に関連する費用も法人の経費として計上しやすくなります。修繕費、管理費、出張費など、個人では認められにくかった費用が、法人格を持つことで通りやすくなることもあります。

法人化には固定コストがかかる、という現実

「じゃあすぐ法人を作ればいいじゃないですか」と思う方もいるかもしれません。でも、そう単純ではありません。

法人を設立・維持するには、登記費用や税理士報酬、法人住民税の均等割(赤字でも年間約7万円)など、固定コストがかかります。実態として年間30〜50万円程度は見込んでおく必要があります。

さらに、個人で保有している不動産を法人に移す場合は、不動産取得税や登録免許税が発生します。移転コストと節税効果のバランスを慎重に計算しなければなりません。

法人化が有利になる目安として、不動産収入が年間500万円を超えてくるあたりがひとつの基準です。ただし、既存の役員報酬の水準や家族構成、保有物件の種類によっても判断は変わります。

結局、何を確認すれば判断できるか

個人か法人かの判断は「現状の実効税率がどれくらいか」と「法人維持コストを払っても元が取れるか」の二点に尽きます。

個人の実効税率が35%以下であれば、法人化してもコストの回収が難しいケースがあります。一方、役員報酬と合算して実効税率が50%を超えているなら、法人化の効果は絶大です。

冒頭の社長には、まず今期の実効税率を確認してもらい、法人設立シミュレーションを試算しました。結果、10年での節税効果が法人維持コストを大きく上回ることがわかり、翌月には法人設立の手続きに入っています。

不動産を個人名義のまま何年も放置しているなら、一度「法人化した場合のシミュレーション」を税理士に依頼してみてください。試算自体は数時間あればできる話です。想像以上の節税余地が見えてくるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。