先日、製造業を経営する60代前半の社長からこんな相談を受けました。「そろそろ引退を考えているんだけど、退職金って税金で半分近く持っていかれるって聞いて…正直、怖くて」
その方が思い描く退職金は約8,000万円。何も対策をしなければ確かに重い税負担になります。でも実は、退職金には給与にはない2つの大きな特別優遇があります。これを知っているかどうかで、手元に残る金額が数千万円単位で変わってくるのです。
退職所得に与えられた「二重の恩恵」
退職金の税計算は、毎月の給与とは仕組みがまったく異なります。まず「退職所得控除」という非課税枠があります。勤続年数に応じて一定額を丸ごと差し引けるもので、30年勤めた場合は1,500万円が控除対象になります。
さらにそこから先が独特です。控除後の残額をさらに2で割った金額にしか課税されません。これが「1/2課税」という仕組みです。退職金が3,000万円で控除額が1,500万円なら、課税対象の所得はたったの750万円。給与で同じ金額を受け取れば1,500万円に丸ごと課税されるのと比べると、その差は歴然です。
この2つの優遇が重なることで、人によっては実効税率が5〜7%台まで下がるケースが生まれます。
法人不動産が節税の「深さ」を変える
ここからが本題です。法人で不動産を保有しておき、その資産の含み益や売却収入を退職金の原資として組み込む設計があります。不動産の値上がりや賃料収入を法人の利益として蓄え、それを最終的に退職金という形で受け取ることで、退職所得特有の税優遇を最大限に活かせる構造です。
重要なのは保有期間の設計です。不動産をいつ法人に取得させるかと、いつ引退するかを逆算して組み立てる必要があります。「引退したから退職金を受け取ろう」と考え始めた段階では、もうこの設計には間に合いません。5年、10年という長い視野で仕込むものです。
勤続年数が「控除の幅」を決める
退職所得控除の計算は以下のルールで決まります。
- 勤続20年以下:1年あたり40万円
- 勤続20年超:1年あたり70万円
30年勤めると、20年×40万円+10年×70万円=1,500万円。40年ならさらに伸びて2,200万円になります。法人設立から引退までの期間が、そのままこの控除額の「幅」になります。早い時期に法人を設立し、計画的に不動産を持つことが、この設計の核心です。
「退職の実態」は必ず作る
ただし、この仕組みには税務署が特に目を光らせているポイントがあります。それは「退職の実態があるか」という点です。
名目上は退職したとしながら、実際には引き続き経営の中枢に関わっていると、退職金ではなく給与と認定されるリスクがあります。株式の承継、経営権の移譲、役員の正式な退任など、実態を伴った引退の形を整えることが前提条件です。
あわせて退職金の金額も「不相当に高額」と判断されると、超過分は損金不算入になります。在任期間・最終報酬月額・功績倍率をかけ合わせた計算式(功績倍率法)の範囲内に収めることが原則で、ここは専門家と一緒に設計することが不可欠です。
引退後に考えても遅い、これだけは知っておいてほしい
冒頭でご紹介した社長は、引退の5年前からこの設計を整え始めました。法人保有の不動産を組み込み、退職金の受け取りタイミングを調整した結果、実効税率は7%台に収まりました。給与で同額を受け取っていたなら、その倍以上の税額になっていた計算です。
退職金の節税設計は「現役中にしか仕込めない」という制約があります。50代前半で動くのと、60代後半で慌てて動くのとでは、選択肢の数も節税効果も大きく異なります。まだ法人での不動産保有を退職設計に組み込んでいないなら、今の役員報酬・勤続年数・保有資産をもとに、税理士と退職金シミュレーションをしてみることを強くおすすめします。「引退後に考えよう」と後回しにするほど、取れる手が少なくなっていきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。