先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。
「5年前に会社で買った倉庫が値上がりして、売ろうと思ったら顧問税理士に『1,200万くらい税金がかかります』と言われた。そんなに取られるなら売るに売れない」
思わず「それ、本当に1,200万払う必要あるんですか?」と聞き返したくなる話です。実は、同じ売却益でも出口戦略の設計次第で、税負担は半分以下になることがあります。今回はその具体的な話をしたいと思います。
「40%課税」が前提になっていませんか?
法人が不動産を売って利益が出ると、その利益は通常の法人所得に上乗せされます。中小企業でも実効税率は30〜40%に達することが多く、売却益3,000万円なら単純計算で1,000万〜1,200万円が税金として消えていく計算です。
ただし、これはあくまで「何も対策をしなかった場合」の話です。法人が保有する不動産には、個人にはない節税の選択肢がいくつか用意されています。多くの社長がそれを知らないまま、顧問税理士の第一声をそのまま受け取ってしまっている。そこに大きなもったいなさがあります。
実際に税負担を20%台に圧縮した事例
冒頭の社長の話に戻りましょう。取得価格9,000万円の倉庫が1億2,000万円に値上がり。売却益は帳簿上で3,000万円。顧問税理士の見立てでは追加納税は約1,200万円でした。
ところが不動産税務に詳しい専門家に相談したところ、状況が一変します。活用できる手段として浮上したのが、主に次の2つです。
ひとつは買い替え特例。事業用不動産を売って、別の事業用不動産に買い替える場合、一定の条件を満たせば売却益の課税を将来に繰り延べることができます。すぐに納税しなくてよい分、キャッシュフローが大幅に改善します。
もうひとつは売却タイミングの調整です。この社長の場合、ちょうど大型設備の更新を検討していました。売却益が出る期に設備投資を前倒しして損益を相殺することで、課税所得そのものを圧縮できます。
この2つを組み合わせた結果、最終的な追加納税は400万円台に収まりました。当初の見込みから800万円近い差が生まれたことになります。
「保有5年超」がひとつのキーワード
法人の不動産売却において、保有期間は重要な要素のひとつです。個人の場合は5年超で「長期譲渡所得」として税率が下がりますが、法人の場合は保有期間による税率の差は基本的にありません。
ただし、買い替え特例など一部の優遇制度では、保有期間が10年超であることが適用要件になっているものもあります。「今すぐ売るか、数年待つか」の判断が、使える制度の幅を大きく左右することもあるのです。
売却を検討し始めたタイミングで専門家に相談すれば、「あと1年待った方がいい」「今期中に売った方がいい」という具体的なアドバイスが得られます。売却を決めてから動き始めると、使えたはずの選択肢が消えていることも少なくありません。
顧問税理士に「不動産の出口」を相談できていますか?
少し厳しいことを言います。顧問税理士が優秀かどうかの問題ではなく、不動産の売却税務はかなり専門性が高い領域です。日常の記帳や決算を担当している税理士が、不動産売却の最適化まで深く対応できるかは、正直なところ別の話です。
「顧問税理士に聞いたからOK」ではなく、不動産税務に特化した専門家にセカンドオピニオンを求めることが、結果的に何百万円という差を生むことがあります。この社長のケースがまさにそうでした。
使える制度は、売る不動産の種類・保有期間・買い替え先の有無・その期の損益状況など、個別の事情によって大きく変わります。「うちも同じように20%台にできるはず」と早合点するのは危険ですが、「一度だけでも専門家に話を聞いてもらう」ことは、どんな社長にもおすすめできます。
含み益のある不動産を持っているなら、今すぐ「出口」を考えてほしい
不動産の価値が上がっているうちは、「まだ持っておこう」という判断になりがちです。ただ、いざ売ろうとなったときに初めて税金の重さに気づいても、打てる手が限られていることがあります。
出口戦略は、売ると決めてから考えるのでは遅い。含み益があるうちに、どう売り抜けるかを設計しておくのが、資産を守る経営者の発想です。
法人で不動産を持っていて、将来的な売却をぼんやり考えているなら、今期中に一度、不動産税務の専門家に現状を相談しておくことを強くおすすめします。相談してみて「今は何もしなくていい」となったとしても、それ自体が大切な情報です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。