先日、不動産賃貸業を営む社長からこんな相談を受けました。「そろそろ持っているビルを売ろうと思っているんですが、税金がどのくらいかかるか試算してもらえますか?」と。
概算を出してみると、予想以上の税負担に社長は絶句していました。売却益が1億円出る見込みだったのですが、そのまま法人で物件を売ると、法人税等で3,000万円超が吹っ飛ぶ計算だったのです。
でも実は、売り方をひと工夫するだけで、その税負担が大きく変わる方法があります。
物件をそのまま売ると、こんなに取られる
不動産を保有している法人が物件を直接売却した場合、その売却益は通常の法人所得として課税されます。中小企業の実効税率はおよそ30〜34%。つまり、1億円の売却益があれば、約3,000万〜3,400万円が税金として消えていきます。
「そんなに取られるなら、売るのをやめようかな」と思いたくなる数字ですよね。でも、諦める前に知っておいてほしい方法があります。それが「法人ごと売却」、つまり株式譲渡というスキームです。
「法人ごと売る」と税率が約20%になる理由
株式譲渡とはどういうことか、シンプルに説明しましょう。
物件を持っている法人の「株式」を丸ごと買い手に売る、というやり方です。物件の所有権は法人に残ったまま、その法人の株主が入れ替わるイメージです。
この場合、売り手(社長個人)に発生するのは「株式の売却益」です。個人が株式を売却したときの税率は、申告分離課税で約20%(所得税15%+住民税5%)に固定されています。
先ほどの例で言えば、1億円の売却益に対して税負担が約2,000万円。物件をそのまま売った場合と比べると、単純計算で1,000万円以上の差が生まれます。売却益の規模が大きくなればなるほど、この差は拡大していきます。
買い手にもメリットがあるから交渉が進みやすい
このスキームが優れているのは、売り手だけが得をするわけではない点です。
買い手にとっても大きなメリットがあります。物件を直接購入した場合、取得価格に基づいて減価償却を計算することになりますが、株式譲渡で法人ごと取得した場合は、法人内の帳簿価格がそのまま引き継がれます。
「それは買い手にとってデメリットでは?」と思うかもしれませんが、取引スキームの設計次第で、買い手側の税務メリットを作り出すことも可能です。また、不動産取得税や登録免許税といった流通コストが発生しないのも、買い手にとって魅力的なポイントです。双方にメリットがあるため、価格交渉がまとまりやすくなるのも実務上の大きな利点です。
ただし、このスキームには注意点がある
ここまで読んで「すぐに使いたい!」と思った社長、少し待ってください。株式譲渡スキームには、しっかり理解しておくべきリスクもあります。
もっとも重要なのが「簿外債務」のリスクです。買い手は法人をまるごと引き受けるため、帳簿に載っていない債務や将来的なリスクも一緒に承継することになります。たとえば、過去の税務リスクや未払いの費用、保証債務などが後から発覚するケースも実務ではあります。
そのため買い手側は通常、デューデリジェンス(買収監査)を実施して法人の状態を精査します。売り手としても、法人の財務状態を整理・クリーンにしておくことが、スムーズな取引への近道です。
また、法人内に不動産以外の資産や事業が混在している場合は、スキームの組み立てがより複雑になります。「とりあえず株式で売ればいい」という単純な話ではなく、法人の状態や売却条件に応じた設計が必要です。
出口を考えるなら、早めに動くのが正解
不動産の出口戦略は、「売ろうと決めてから考える」では遅いことが多いです。法人の財務状態を整える時間、買い手を探す時間、デューデリジェンスの時間——それぞれに相応の期間がかかります。
特に、株式譲渡で有利に売却するためには、法人の帳簿をきれいにしておくことが前提条件になります。不要な資産や負債が残っていると、買い手の印象が悪くなり、交渉が難航することもあります。
「いつかは売るかもしれない」と思っている段階から、税理士や不動産の専門家に相談しておくことをおすすめします。売るタイミングを自分でコントロールできる状態を作っておくのが、結果として一番大きな節税になるのです。
不動産を法人で保有している社長は、ぜひ一度「出口のシミュレーション」を専門家と一緒にやってみてください。数字を見るだけで、戦略が大きく変わるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。