先日、都内で賃貸ビルを売却したばかりの社長からこんな連絡がありました。「売れたのはよかったんですが、税理士に試算してもらったら、思っていた以上に税金がかかって……。もっと早く相談すればよかった」と。
売却益が出たこと自体は喜ばしいことです。でも、対策を「売った後」に考え始めると、打てる手がほぼ残っていないのが法人の不動産売却の怖いところなんです。
今回は、法人で不動産を売るときによくある節税ミスを3つ、具体的にお伝えします。
3位:「個人と同じ特例が使える」と思い込んでいた
個人で不動産を売ると、居住用財産の3,000万円特別控除や、買い替えによる課税繰延など、かなり手厚い特例が使えます。これを知っている社長ほど、「法人でも同じような制度があるはず」と思いがちです。
ところが、実際はかなり違います。たとえば米国には「1031交換」と呼ばれる制度があり、適格な買い替えをすれば売却益への課税を完全に繰り延べられます。日本の個人の買い替え特例もそれに近い発想ですが、日本の法人にはこれに相当する汎用的な課税繰延制度は存在しません。
「どうせ買い替えるから税金はかからない」という前提で動いてしまうと、思わぬ課税が発生します。法人と個人の税制は別物だという認識を、まず持っておくことが大切です。
2位:「法人には特例がない」と諦めていた
一方で、逆のパターンもあります。「法人に買い替え特例はないから仕方ない」と完全に諦めてしまっているケースです。
たしかに個人ほど選択肢は多くありませんが、法人でも使える圧縮記帳の制度はあります。 代表的なのが「収用等の場合の課税の特例」です。道路拡張や公共事業のために土地や建物を買い取られた場合、その売却益を圧縮記帳によって将来に先送りできます。
圧縮記帳とは、売却益を一度資産の取得価額から差し引くことで、すぐに課税されるのではなく減価償却を通じて少しずつ費用化していく手法です。一時的なキャッシュアウトを抑えたい場面では非常に有効です。
もちろん適用には厳格な要件があります。「うちは関係ない」と判断する前に、一度税理士に確認してみることをおすすめします。意外と使える場面があるものです。
1位:売却益の対策を「売った後」に考えた
これが最もよくある、そして最もダメージが大きいミスです。
法人の売却益には、法人税・地方法人税などを合わせておよそ23〜25%前後の実効税率がかかります。仮に売却益が1億円なら、2,500万円前後が税金に消えていく計算です。
問題は、課税されるのは売却した事業年度の決算時だということ。売却後に慌てて節税策を探しても、その期中に計上できる費用や損金には限りがあります。
事前に設計できる手段は意外と多くあります。たとえば、減価償却資産(機械・設備・車両など)を売却前に追加購入して償却費を積み上げる方法。あるいは、長年会社に貢献してきた役員の退職金を支給することで、大きな損金を作り出す方法もあります。役員退職金は適切な金額設定と議事録の整備が必要ですが、うまく活用すれば数千万円単位の節税効果が出ることもあります。
いずれの手法も、売却の意思決定をした時点、できれば1〜2年前から逆算して準備を始めることが理想です。
売る前に一度、シナリオを描いておく
不動産の売却は、会社にとって大きなイベントです。キャピタルゲインを手にするチャンスである一方、準備不足では税金でその果実の多くが消えてしまうリスクもあります。
「いくらで売れそうか」と同時に「売ったら税金はいくらか、どう対策するか」をセットで考える習慣をつけておくだけで、手元に残るお金は大きく変わります。
不動産の売却を検討している、あるいは将来的に出口戦略を考えているという社長は、ぜひ今のタイミングで税理士と一度シナリオを描いてみてください。「まだ先の話」と思っているうちが、一番手を打ちやすい時期です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。