先日、都内で賃貸マンションを1棟持つ社長から、こんな連絡が届きました。
「物件を売ろうとしたら、税理士から『今売ると税金が約4割かかります』と言われて頭が真っ白になりました」
4割。売却益の4割が税金として消える。1億円の利益なら、4000万円近くが国に持っていかれる計算です。この話、決して珍しくありません。不動産の売却税制は、知っているか知らないかで手元に残る金額がまったく変わってきます。今日は「やってしまいがちな3つのミス」を順番にお話しします。
ミス③ 「5年」を意識せずに売ってしまう
個人で不動産を売却したとき、その物件をどのくらいの期間保有していたかで税率が大きく変わります。保有期間が5年以下だと「短期譲渡所得」として約39%、5年を超えると「長期譲渡所得」として約20%が適用されます。
この差、2倍近いんです。
たとえば売却益が5000万円あったとすると、短期なら約1950万円、長期なら約1000万円の税負担です。その差は実に950万円。しかも「5年超」の判定は、取得日の翌日から売却した年の1月1日時点での保有年数で計算されます。つまり、ほんの数日の違いで数百万円変わることが実際に起きています。
売却を焦る気持ちはわかりますが、「あと数ヶ月待てば税率が半分になる」という局面では、ぐっとこらえるのが正解です。
ミス② 法人への移転という選択肢を知らなかった
個人で持っている物件を法人に移転してから売るという方法があります。法人税の実効税率はおおよそ33%前後。個人の短期譲渡39%と比べると、それだけでも差があります。
さらに法人の場合は、役員報酬や他の経費と損益を合算できるのが大きなポイントです。たとえば、その期に役員報酬をある程度取っていれば、法人全体の所得を圧縮することができます。個人の譲渡所得は他の所得と分離課税なので、こういった柔軟な調整が効きません。
ただし、個人から法人へ不動産を移転する際には、適正な取引価格での売買が必要ですし、不動産取得税や登録免許税なども発生します。移転コストと節税効果をきちんと試算してから動く必要があります。「なんとなく法人に移せばいい」という雑な判断は禁物です。
ミス① そもそも最初から法人で買っていなかった
3つのミスの中でいちばん影響が大きいのが、これです。
法人で不動産を取得しておけば、保有期間に関係なく売却益には法人税率(実効約33%)が適用されます。個人のように「5年縛り」がないので、2年で売っても3年で売っても税率は変わりません。
個人の短期39%と法人の33%を比べると、1億円の売却益で最大600万円以上の差になることがあります。さらに前述のとおり、役員報酬や経費との損益通算が使えるので、実質の税負担はもっと抑えられる可能性があります。
不動産投資を始めるとき、多くの方が「まず個人で1棟買ってみよう」と考えます。手軽だし、融資を引きやすいケースもある。でも、出口(売却)まで見越した設計をしないと、最後の最後に大きな税負担が待っています。
取得時にどの器(個人か法人か)で買うかを決めることが、出口戦略の第一歩です。物件を買う前に、売るときのことを考える。この順番が大切です。
結局、何をすればいい?
整理すると、押さえておきたいポイントは3つです。
- 個人保有の物件は「取得から5年超」を目安に売却タイミングを設計する
- すでに個人で持っている物件は、法人移転の費用対効果を試算してみる
- これから不動産投資を始めるなら、最初から法人取得を検討する
どれか1つでも見直すだけで、手元に残るキャッシュが大きく変わります。特に「これから物件を買おうとしている」社長は、今がいちばん動きやすいタイミングです。取得後に後悔しても、器を変えるにはコストと手間がかかります。
不動産の売却は一生に何度もあることではありません。だからこそ、「なんとなく売った」で終わらせず、事前に出口まで設計しておくことをおすすめします。信頼できる税理士と一緒に、売る前の段階からシミュレーションを作っておきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。