先日、製造業を経営するA社長から、こんな話を聞きました。「税理士に相談したら、想定の2倍の税金になると言われて、頭が真っ白になった」と。

何があったのか、詳しく聞いてみると——。

短期譲渡所得、その税率は「39%」

A社長は、個人で所有していたビルを売ろうとしていました。取得してから約3年。売却益は5,000万円を見込んでいて、「まとまった資金が入ってくる」と楽しみにしていたそうです。

ところが税理士から返ってきたのは、予想外の一言でした。

「短期譲渡所得になりますので、税率は39%ですね」

不動産の個人売却には、保有期間によって税率が大きく変わるルールがあります。売却した年の1月1日時点で保有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、所得税と住民税を合わせた税率は約39%。5年超なら「長期譲渡所得」で約20%になります。

A社長の場合、取得から3年。まさに短期扱いでした。

5,000万円 × 39% = 約1,950万円が税金に消えることになります。

同じ物件でも、法人が売れば約30%

ここで重要な比較が出てきます。

同じ物件を、法人(会社)が売却した場合はどうなるか。法人税の実効税率は、中小企業で概ね30%前後です。

5,000万円 × 30% = 約1,500万円。

個人の短期売却と比べると、約450万円の差が生まれる計算になります。さらに法人の場合、不動産の売却損が出たときに、他の事業利益と損益通算できるというメリットもあります。個人ではこの通算が原則できないため、損が出ても節税に使いにくいのです。

A社長が選んだ「出口戦略」の切り替え

この話を聞いたA社長は、すぐに動きました。

個人からそのまま売却するのをいったん止め、物件を法人に移してから売却する「出口戦略」に切り替えたのです。法人への移転には手続きや費用もかかりますが、それを差し引いても手取りが大きく改善しました。

売却を焦らずに「どこから売るか」を考え直したことで、数百万円単位の差が生まれたわけです。

「誰が保有するか」と「いつ売るか」が手取りを決める

不動産の節税を語るとき、購入時の減価償却や借入の話になりがちです。でも実は、売るときの設計こそが最終的な手取りを大きく左右します。

特に注意が必要なポイントを整理すると、

  • 個人保有で5年以内に売ると、税率は約39%(長期の約2倍)
  • 法人保有なら売却損を他利益と相殺できる柔軟性がある
  • 個人→法人への移転は、移転コストと節税効果を比較してから判断する

という点が挙げられます。

ただし、「じゃあ全部法人に移せばいいのか」というと、そう単純でもありません。不動産取得税や登録免許税など移転コストがかかりますし、法人の財務状況や他の資産とのバランスも考慮が必要です。「今の保有状況で売ったらいくらになるか」を先に試算してもらうことが、第一歩になります。

売る前に、一度試算を

不動産を持っている社長は、売却を検討し始めた段階で、必ず税理士に試算を依頼してください。売った後では遅いのが、税の世界です。

特に個人で取得してから5年以内の物件は、売却のタイミングを少し変えるだけで税額が大きく動きます。「売ろうかな」と思い始めた今が、戦略を見直す最良のタイミングです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。