先日、不動産賃貸を副業にしている製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「長年持っていたビルを売ったら、思いのほか損が出てしまって。本業は今期かなり黒字なんだけど、この売却損って何かに使えないですかね?」
結論から言うと、法人であれば使えます。しかも、かなり強力な形で。
個人と法人、損益通算のルールが根本的に違う
個人で不動産を売って損が出た場合、原則として他の所得と合算できません(一部例外はありますが)。売却損は「その取引の中だけ」で完結してしまうことが多く、損をしたのに節税にならない、という理不尽な事態が起きがちです。
一方、法人の場合は原則として全所得が合算課税されます。不動産の売却損も、本業の利益も、法人税の計算上は同じ「課税所得」の中で一緒に計算されるのです。
つまり、本業で2,000万円の黒字が出ていたとしても、不動産売却で2,000万円の損が出ていれば、課税所得はゼロ。理論上、法人税もゼロになります。
売却損が大きすぎたときの「繰越」という武器
「本業の黒字より売却損のほうが大きかったらどうなるの?」という疑問もよく受けます。
この場合、相殺しきれなかった損失は「欠損金」として翌期以降に繰り越せます。しかも最大10年間。
今期5,000万円の売却損が出て、本業の黒字が1,000万円だった場合、4,000万円の欠損金が残ります。この4,000万円は、翌年以降の利益と順番に相殺していけるわけです。今期の損が、将来10年にわたる節税の原資になるイメージです。
本業が順調で毎年利益が出るタイプの会社ほど、この繰越欠損金の恩恵が大きくなります。
「損出し」は目的と実態が問われる
ここまで読むと、「含み損を抱えた物件を今期中に売って、利益を圧縮しよう」と考える方もいるかもしれません。いわゆる「損出し」と呼ばれる手法です。
これ自体は違法ではありませんが、注意が必要なポイントがあります。
税務調査で問われるのは「事業目的の合理性」です。売却の理由が「資金繰りのため」「老朽化による建替え計画のため」「事業縮小のため」など説明できるものであれば問題になりにくいですが、「税金を減らすためだけに売った」という実態が透けると、否認リスクが生じます。
特に、関連会社間での不動産の売り買いや、売却直後に同じ物件を買い戻すような取引は、税務署に目をつけられやすい典型パターンです。形式ではなく実態で判断されると理解しておきましょう。
タイミングと物件選びが節税効果を左右する
実際にこの手法を活用するなら、以下の点を整理しておくと判断しやすくなります。
- 今期の本業利益の見込み額(相殺できる黒字がどの程度あるか)
- 売却を検討している物件の含み損の金額(帳簿価額と売却見込み額の差)
- 売却に明確な事業上の理由があるか(資金調達、事業整理、老朽化対応など)
- 欠損金の繰越をどう使うか(翌期以降の利益計画との整合性)
この4点が揃えば、税理士との相談もスムーズに進みます。
「損が出た年」をただ嘆かない
冒頭の社長の話に戻ると、結局その方の場合、売却損が本業の黒字をほぼ相殺できる金額だったため、その期の法人税は大幅に圧縮できました。「売って損した」という事実は変わりませんが、その損を税務上で活かすことで、実質的なダメージをかなり和らげることができたのです。
含み損を抱えた不動産を持っている会社は、出口戦略を「損確定で終わり」と捉えるのではなく、本業の利益との兼ね合いで戦略的に売却タイミングを決めるという視点を持っておくことをおすすめします。
今期の決算が黒字見込みで、かつ「そろそろ手放してもいいか」と思っている物件があれば、一度試算してみる価値は十分あります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。