先日、不動産賃貸業を営む社長からこんな相談を受けました。「そろそろ持っている物件を整理しようと思っているんですが、売るタイミングや方法って、どう考えればいいですかね?」

こういうご相談、実は出口戦略を考える上でとても重要な問いです。多くの方が「不動産を売る=物件そのものを売る」と思い込んでいますが、法人で不動産を持っている場合、もう一つの選択肢があります。それが「法人ごと売る」という方法です。

「物件を売る」のではなく「会社を売る」という発想

具体的には、その不動産を所有している法人の株式を丸ごと買主に譲渡するスキームです。買主から見ると、不動産という「資産」を買うのではなく、その資産を持つ「会社」を買うイメージです。

一見ハードルが高そうに感じるかもしれませんが、このスキームが注目される理由は、買主・売主の双方にメリットがあるからです。

買主にとってのメリットが、売値交渉を有利にする

通常、不動産を購入すると、買主は不動産取得税(最大4%)や登録免許税を負担しなければなりません。たとえば1億円の物件であれば、それだけで数百万円のコストが上乗せされます。

ところが株式譲渡の形をとると、不動産の「所有者」は法人のまま変わらないため、これらの税金が発生しないのです。買主にとっては取得コストが大幅に下がります。

ここがポイントで、買主のコストが下がる分、売主はその差額を売値に上乗せして交渉しやすくなります。「じゃあ、その節税分を少し色つけてよ」という話ができるわけです。双方にとって得する構造が生まれやすい、これが株式譲渡スキームの本質です。

売主の税負担も、驚くほど変わることがある

売主側のメリットも見逃せません。法人が直接不動産を売却した場合、売却益は法人の利益として計上され、法人税・住民税・事業税の合計(実効税率)は最大で約34%前後にのぼることがあります。

一方、個人株主が株式を譲渡した場合の税率は、申告分離課税で約20%(所得税15%+住民税5%)。この差が積み重なると、手取り額に数百万円の差が生まれることも十分あり得ます。

たとえば売却益が3,000万円あった場合、法人直接売却なら税負担が約1,000万円。株式譲渡なら約600万円。その差は400万円です。これは「知っているか、知らないか」だけで変わる数字です。

このスキームを使うための「前提条件」

ここまで聞くと「じゃあすぐやろう」と思いたくなりますが、いくつか押さえておきたい前提があります。

買主は「会社ごと買う」わけですから、その法人の内部状況を徹底的に調べます。これがデューデリジェンス(DD)と呼ばれるプロセスで、過去の財務諸表・契約書・債務・訴訟リスクなどが精査されます。

ここで帳簿が不透明だったり、不明瞭な取引が混在していたりすると、交渉が難航するか、最悪の場合は破談になります。「法人の中をきれいに保っておくこと」が、このスキームを使える最低条件です。

また、法人に不動産以外の事業や複雑な資産が混在していると、スキームの組み立てが難しくなります。できれば不動産専用の法人を別に立てておくと、出口の選択肢が広がります。

出口を意識して、今から法人を「磨く」

不動産投資の出口は、買うときから考えておくべきテーマです。株式譲渡スキームは確かに有効ですが、それを活かすには法人の「売れる状態」を作っておく必要があります。

具体的には、毎期の決算をきちんと申告し、経費の根拠をしっかり残しておくこと。個人的な支出と法人支出を混同しないこと。こうした地道な管理が、いざ売却するときの交渉力に直結します。

まだ出口を考えたことがなかったという方は、まず「今の法人の帳簿はDDに耐えられる状態か?」を税理士に確認してみることをおすすめします。準備は早ければ早いほど、選択肢が増えます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。