先日、飲食チェーンを経営する社長からこんな相談を受けました。

「10年前に自分の名義でテナントビルを買ったんですが、毎年の家賃収入に税金がごっそり持っていかれて……もう少しうまくやれたんですかね?」

これ、実は非常によくある「もったいない」パターンです。テナントビルや商業ビルを個人名義で持っている社長は、知らず知らずのうちに大きな税負担を背負い続けています。今日はその構造と、「知っている社長」がやっている打ち手をお伝えします。

個人名義のビルは、家賃収入が「最大55%課税」になる

まず現実の数字を見てもらいましょう。テナントビルから年間1,000万円の家賃収入があったとします。個人の場合、この収入は「不動産所得」として給与などと合算されて課税されます。

社長はすでに役員報酬で高い所得税率が適用されているケースが多い。そこに家賃収入が乗っかると、所得税と住民税を合わせて最大55%の税率がかかることもあります。1,000万円の家賃収入のうち、550万円が税金として消えていく計算です。

「自分の資産から得た収入なのに、半分以上が税金に……」と感じるのは当然です。

法人で持つと、税率がほぼ半分以下になる

一方、法人名義でビルを所有した場合はどうなるか。法人税の実効税率は規模にもよりますが、おおむね23〜30%程度に収まります。個人の最大55%と比べると、その差は歴然です。

同じ1,000万円の家賃収入でも、法人経由であれば手元に残るお金がまったく変わってきます。この「税率の差」だけでも法人活用の意義は十分ありますが、実はもう一段、強力な武器があります。

減価償却で「年300万円超」の経費を作り出す

それが減価償却です。建物は年々劣化するという考え方から、取得費用を一定年数にわたって毎年経費として計上できる仕組みです。

たとえば、鉄筋コンクリート造のテナントビルを2億円で購入したとします。法定耐用年数は47年ですが、築年数や構造によって実際の償却年数は変わります。計算上、年間300万円以上が経費として計上できるケースは珍しくありません。

これが法人の利益を圧縮し、そのまま法人税の節税につながります。しかも、実際にお金が出ていくわけではない「帳簿上の経費」です。キャッシュを使わずに利益を減らせる、これが減価償却の最大の魅力です。

法人なら「使える経費」の幅がまるで違う

減価償却以外にも、法人でビルを持つメリットはたくさんあります。

修繕費や管理費はもちろん、物件取得のために借り入れた融資の利息も法人の経費になります。さらに、ビルの管理業務に関連する出張費や通信費なども、法人経費として計上できる余地があります。

個人で持った場合と比べると、使える経費の「引き出し」の数がまったく違います。節税は合法的な「コスト管理」ですが、その選択肢の豊富さが法人の強さです。

ただし「必ず試算してから動く」が鉄則

ここまで読んで「すぐ法人に切り替えよう」と思った方、少し待ってください。

個人から法人へビルを移す場合、売買という形をとるため、個人に譲渡所得税が発生することがあります。また、物件の種類・築年数・規模・借入状況によって、節税効果の大きさはまったく異なります。

「法人が有利」という大原則はあっても、あなたの状況に当てはめた試算なしに動くのはリスクがあります。税理士に「うちの物件で試算してほしい」と依頼するだけで、数百万単位の損得が見えてくることがあります。

これから買うなら、最初から法人名義で

今後テナントビルや商業ビルの購入を検討しているなら、最初から法人名義で取得するのが最もシンプルで効果的です。後から移すよりも、コストも手間もかかりません。

「法人でビルを持つ」という発想が当たり前になっている社長と、知らないまま個人で持ち続ける社長とでは、10年・20年のスパンで見たときに、手元に残る資産が大きく変わってきます。

すでに個人名義でテナントビルを持っている方は、一度顧問税理士に「法人への移転シミュレーション」をお願いしてみてください。動くかどうかはその数字を見てから判断しても、まったく遅くはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。