先日、都内で賃貸マンションを3棟持つ社長から、こんな相談を受けました。

「そろそろ息子に引き継がせたいんだけど、相続税がいくらになるか怖くて試算もしていない」

不動産オーナーの社長に多いパターンです。資産があるのはわかっている。でも、具体的な数字と向き合うのが怖くて、先送りにしてしまっている。

その気持ちはよくわかります。ただ、先送りにするほど選択肢は減っていきます。今日は、知っている社長と知らない社長で「同じ資産なのに相続税が数千万円変わる」仕組みについて、率直にお話しします。

個人名義のまま相続すると何が起きるか

個人名義の不動産を子供に相続させる場合、相続税の評価は基本的に「路線価ベースの土地評価+建物の固定資産税評価額」で計算されます。

時価よりは低くなるとはいえ、都心の物件であれば評価額が数億円に達することも珍しくありません。そこに相続税の税率(最高55%)が乗ってくるわけです。

資産家と呼ばれる社長ほど、この「評価額の高さ」が重荷になります。不動産は換金しにくいにもかかわらず、税金だけは現金で払わなければならない。結果として、物件を売却して納税するケースも少なくありません。

不動産管理法人を使うと何が変わるか

知っている社長がやっていることは、シンプルに言うとこういうことです。

「不動産を個人で持つのではなく、法人を通じて管理・収益化する仕組みを作る」

まず、不動産管理法人を設立します。物件の管理を法人に任せ、家賃収入を法人に集める形にします。そして子供を役員として迎え、給与という形で資産を合法的に移転していく。

ここまでは「節税あるある」として聞いたことがある方も多いでしょう。ただ、相続対策として特に効いてくるのが「株式評価」の話です。

法人株式として承継するメリット

不動産管理法人の株式は、「非上場株式の評価ルール」で計算されます。このルールが巧みで、一定の条件が整えば、実質的な資産価値よりも評価が下がるケースがあります。

具体的には、類似業種比準価額方式や純資産価額方式の組み合わせによって、評価額が実態の6〜7割程度に圧縮されるケースも出てきます。つまり、同じ価値の資産でも、個人名義で持つより法人株式として持つ方が、相続税の計算上は「安く見える」わけです。

3割以上圧縮できるケースもあると言われるのは、こういう理由からです。

10年単位で設計すると数千万円の差になる

法人化のもう一つの強みは、時間を味方につけられることです。

子供を役員にして毎年給与を払う。役員報酬は法人の経費になるので法人税も下がる。子供は受け取った給与を自分の資産として蓄積できる。これを10年続ければ、贈与税をかけずに数千万円規模の資産移転が完成します。

さらに、法人内に積み上がった内部留保も、計画的に配当や退職金の形で分散できます。一気に動かそうとするから税金が重くなる。少しずつ、時間をかけて動かすのが基本です。

個人名義のまま何もしなかった社長と、10年前に法人を設立して設計してきた社長。同じ資産規模でも、相続が発生したときの税負担は数千万円単位で変わることがあります。

注意しておきたいこと

「では今すぐ法人を作れば解決だ」と思うかもしれませんが、いくつか注意点があります。

まず、不動産を個人から法人に移す場合、譲渡所得税が発生することがあります。既存の物件をそのまま法人に移すのではなく、管理委託の形からスタートするケースが多いのはそのためです。

また、法人の維持には毎年のコスト(税理士費用、法人住民税の均等割など)もかかります。規模感によっては、コストが節税効果を上回ることもあるため、慎重な試算が必要です。

さらに、株式評価の圧縮効果は、法人の資産構成や利益水準によって大きく変わります。「必ず3割下がる」わけではないので、自分のケースでどうなるかは専門家に試算してもらうのが前提です。

動き始めるなら早いほどいい

相続対策に「早すぎる」ということはありません。60代であれば、今から10年の設計が十分に間に合います。70代であっても、5年でできることはあります。

一方で、何もしないまま時間が過ぎると、選択肢はどんどん狭まります。健康状態が変わってから動こうとしても、金融機関の融資がつかないこともある。判断能力が問われる局面では、そもそも契約ができないこともあります。

不動産を持つ社長にとって、法人活用の相続設計は「やるかやらないか」ではなく、「いつ始めるか」の問題です。まだ具体的に動いていないなら、まずは現状の資産評価と相続税の試算を税理士に依頼するところから始めてみてください。数字を見てから判断しても、遅くはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。