先日、製造業を営む田中社長(仮名)からこんな相談を受けました。
「1億円の物件を法人で買おうと思っているんですが、地方の高利回り物件と都心の低利回り物件、どっちが得なんですかね?」
一見シンプルな質問ですが、これが実はとても奥深い。同じ1億円を使っても、選ぶ場所によって法人に残るお金が1000万円以上変わってくることがあるからです。今日はその話をしていきます。
地方8%利回りの魅力と落とし穴
地方物件の最大の魅力は、なんといってもキャッシュフローの厚さです。利回り8%なら、年間の家賃収入は800万円。毎月66万円以上が法人口座に入ってくる計算になります。
節税面でも効果は大きいです。1億円の物件のうち建物部分が大きければ、減価償却費として毎年かなりの金額を経費に計上できます。これによって法人税を年間150万円前後、圧縮できるケースも珍しくありません。
ただし、ここで終わらないのが地方物件の難しさです。
空室リスクは都心と比べて格段に高く、入居者が退去したあとの次の募集に時間がかかることがあります。満室想定で計算していたキャッシュフローが、半分以下になる年が続くことも現実にあります。
そしてもうひとつの落とし穴が、出口(売却時)の課税です。減価償却を大きく取るほど、売却時の帳簿上の価値(簿価)は下がります。売却価格と簿価の差が大きくなればなるほど、譲渡益に対する法人税が重くのしかかってきます。節税した分が、売るときにまとめてツケとして回ってくるイメージです。
都心3%利回りは「じわじわ勝つ」戦略
一方、都心物件は年間の家賃収入が300万円程度と、地方の半分以下になることもあります。減価償却の恩恵も相対的に小さく、「節税効果が薄い」と感じる社長も多いです。
ただし、都心物件が強いのは資産価値の安定性と出口の柔軟さにあります。
都心の優良立地であれば、10年後に売却しようとしたとき、購入価格と同等か、場合によっては含み益が出ることもあります。つまりキャッシュフローは薄くても、売却益で一気に逆転できる可能性を秘めているわけです。
法人税の節税インパクトだけを見れば地方物件に分がありますが、売却益を含めたトータルの「手残り」で比較すると、都心物件が上回るケースも十分にあります。10年スパンでシミュレーションすると、その差が1000万円を超えることも珍しくないのです。
「節税」と「資産形成」は目的が違う
ここで整理しておきたいのは、目的によって最適な物件は変わるということです。
今期の利益が大きく出ていて、法人税を今すぐ減らしたいなら、地方の高利回り物件は有効な選択肢のひとつです。減価償却を使って課税所得を圧縮し、手元キャッシュを確保しながら節税できます。
一方、「10年後・20年後に会社の財産として積み上げていきたい」「売却して事業資金に充てたい」という考えなら、資産価値が落ちにくい都心物件のほうが長期的には合理的な選択になりえます。
節税と資産形成は、どちらが正しいということではなく、そもそもゴールが違うのです。この2つを混同したまま物件を選ぶと、「節税できたけど、売るときに困った」「資産は増えたけど、当時の税負担が重かった」という後悔につながります。
法人で物件を買う前に確認したい3つのこと
田中社長にもお伝えしたのですが、不動産投資を法人で検討するなら、最低限この3点を整理してから動くことをおすすめしています。
ひとつ目は、今期の利益と税負担の規模感です。節税効果を活かすには、そもそも課税所得がある程度出ていることが前提になります。
ふたつ目は、何年後に売却するか、あるいは持ち続けるかの出口イメージです。ここを決めずに買うと、減価償却の計算や物件の選び方がぼやけてしまいます。
三つ目は、空室になったときのキャッシュフロー耐性です。地方物件は特に、「最悪の場合でも会社のお金が回るか」を冷静に試算しておく必要があります。
同じ1億円でも、戦略次第で手残りが変わる
投資物件の話は「利回りが高いほど得」と思われがちですが、税務の世界ではそう単純ではありません。どのタイミングで経費化するか、どのタイミングで売却するか、そのときの法人の状況はどうかによって、最終的な手残りは大きく変わります。
田中社長との相談の結果、まずは今期・来期の利益予測と、5年後の事業計画を整理してから物件探しに入ることにしました。焦って物件を決めるより、戦略を先に組み立てるほうが、結果として数百万円単位の差を生むことが多いからです。
法人で不動産投資を考えているなら、「節税のためか、資産形成のためか」をまず自分に問いかけてみてください。その答えが、物件選びの出発点になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。