先日、東京で建設業を営む社長から、こんな打ち明け話を聞きました。

「節税になると聞いて自社ビルを法人に移したのに、逆に数百万円も出ていってしまった」

顔が青ざめていました。税理士から「法人で不動産を持つと有利」と聞き、深く考えずに進めてしまったそうです。個人から法人に不動産を移す節税策は、やり方を間違えると大きな痛手を食らいます。今回は、その社長が教えてくれた「3つの後悔」をもとに、実行前に知っておくべきことをお話しします。

後悔① 移転するだけで230万円が飛んだ

「法人に移す」と一言でいっても、そこには当然コストが発生します。

不動産を個人から法人に売却(または現物出資)する場合、不動産取得税・登録免許税・司法書士費用がセットでかかります。A社長のケースでは、この合計が約230万円に膨らみました。

節税効果が出るまでには時間がかかります。仮に年間の節税額が50万円だとすれば、コスト回収だけで4〜5年かかる計算です。その間に売却や廃業のシナリオがあれば、回収できないまま終わります。

「節税になる」という結論だけで動くと、この初期コストを見落とします。移転コストの総額と回収年数の試算が、判断の出発点です。

後悔② 時価より安く売ったら、差額に税金がかかった

個人から法人への売却で多いのが、「身内同士だから安くていいか」という発想です。これが大きな落とし穴になります。

税務上、個人から法人への低廉譲渡(時価より安い売却)は、差額部分が「贈与」や「給与」として扱われ、課税対象になります。たとえば時価5,000万円の不動産を3,000万円で売った場合、差額の2,000万円に税金がかかる可能性があります。

これを防ぐには、適正な時価での売却が必要です。そのためには不動産鑑定士による評価が必要になり、費用は数十万円規模。さらに手続きの複雑さから弁護士・税理士費用も加算されます。

「安く売れば手続きが楽」は税務の世界では通用しません。むしろ時価評価を取得しないほうが、後から高くつく結果になります。

後悔③ 個人側にも「売却益への課税」が待っていた

法人に売却した個人側にも、税金がかかります。

不動産を売却すると、取得価格と売却価格の差額(譲渡益)に課税されます。5年超保有していれば長期譲渡所得として約20%の税率ですが、これは決して小さくありません。

A社長の場合、数年前に取得した物件の含み益が大きかったため、個人での売却益に対してかなりの税額が発生しました。「法人側で節税できるつもりが、個人で先払いになってしまった」という状態です。

この影響を最小化するには、購入時期・取得価格・現在の時価をセットで確認し、個人側の税負担も含めたトータルの試算が欠かせません。

法人移転が「得になるケース」は実在する

誤解のないようにお伝えすると、法人に不動産を移す節税策が完全にNGというわけではありません。法人税率が個人の所得税率を下回るほどの利益がある、含み益が小さい物件である、法人での賃貸収入を役員報酬に分散させる目的がある——こうした条件が重なるケースでは、移転のメリットが上回ることもあります。

ただ、それは「トータルで試算した結果」であって、最初から「法人移転=節税」と決め打ちするのは危険です。

実行前に必ず確認する4つのこと

個人→法人への不動産移転を検討しているなら、以下を数字で出してから判断してください。

  • 移転コストの見積もり(不動産取得税・登録免許税・司法書士費用の合計)
  • 個人側の譲渡所得税の試算(取得価格・保有期間を確認)
  • 時価評価の取得(低廉譲渡リスクを防ぐため)
  • 回収年数の計算(初期コスト ÷ 年間節税額)

ここを飛ばして「やってから後悔」するほうが、はるかに高くつきます。


法人での不動産保有を検討している社長は、ぜひ一度「個人と法人、どちらで持ち続けるほうが得か」をトータルで試算してもらってください。「節税になる」という一言だけを鵜呑みにせず、自分のケースでの数字を確認することが、A社長のような後悔を防ぐ唯一の方法です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。