先日、都内で不動産賃貸業を営む60代の社長からこんな相談を受けました。
「相続税の対策、とりあえず生命保険に入ってるんだけど、それで十分かな?」
お気持ちはよくわかります。生命保険は確かに有効な手段のひとつです。ただ、土地をお持ちの方に限って言えば、見落とされがちな「もっと強力な武器」があります。それが「小規模宅地等の特例」です。
1億円の土地が、計算上2000万円になる
小規模宅地等の特例とは、一定の条件を満たす土地について、相続税の計算に使う評価額を大幅に圧縮できる制度のことです。
たとえば、事業用の土地であれば最大80%の評価減が適用されます。つまり、評価額1億円の土地が、相続税の計算上は2000万円として扱われる。この差は、そのまま相続税額の差になって跳ね返ってきます。
相続税の税率は最高55%ですから、評価額が8000万円圧縮されれば、単純計算で数千万円単位の節税につながることもあります。生命保険の非課税枠(法定相続人×500万円)と比べると、その規模感の違いは明らかです。
不動産投資をしているなら「貸付事業用宅地」に注目
賃貸アパートやマンションを経営している社長にとって、特に関係が深いのが「貸付事業用宅地等」という区分です。
賃貸物件の敷地として使っている土地は、この区分に該当する可能性があり、評価額を50%減額できます。200㎡までが上限ですが、たとえば評価額8000万円の土地があれば、4000万円まで圧縮できる計算になります。
さらに、ご自身の事業(店舗や工場など)に使っている土地であれば「特定事業用宅地等」として80%減額の対象になる可能性があります。こちらは400㎡まで適用できるため、規模の大きい事業用地ほど恩恵が大きくなります。
「うちはまだ相続なんて先の話」と思っている社長もいらっしゃるかもしれません。ただ、この特例は保有期間や土地の利用状況によって適用の可否が判定されます。「相続が発生してから慌てて動く」では間に合わないケースが多いのです。
早く動くほど効果が大きい理由
相続対策全般に言えることですが、特にこの特例は「準備に時間がかかる」という特徴があります。
賃貸物件を新たに取得して貸付事業用宅地として認めてもらうためには、相続発生前から継続的に賃貸経営をしていることが求められます。直前に慌てて物件を買っても、要件を満たせないケースがあります。
また、2018年度の税制改正以降、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供した土地は原則として対象外とされています(一部例外あり)。つまり、「3年以上前から動いていた人」が有利になる制度設計になっているのです。
今から不動産投資を始めて賃貸経営を軌道に乗せ、将来の相続対策につなげていく。このシナリオを描くなら、早ければ早いほど選択肢が広がります。
適用要件は「ケースバイケース」が多い
ここまで読んで「うちもすぐ使えそう」と思った方、少しだけ立ち止まってください。
この特例、実は要件が細かく、ケースによって判定が大きく変わります。たとえば「誰が相続するか」「相続後もその土地をどう使うか」「申告期限までに手続きが完了しているか」といった条件が絡み合っています。
特に、被相続人と同居していたかどうか、配偶者や子が土地をどう引き継ぐかによっても適用の可否や減額割合が変わることがあります。「自分はてっきり対象だと思っていたのに、実は要件を満たしていなかった」という事例は少なくありません。
今期中に「土地の棚卸し」をしておこう
社長にひとつお願いがあります。今お持ちの土地や不動産を、一度リストアップしてみてください。
自宅の土地、賃貸物件の敷地、事務所や倉庫の敷地——それぞれについて「小規模宅地等の特例が使えるか」を専門家と一緒に確認しておくだけで、将来の相続税額は大きく変わる可能性があります。
生命保険は手軽な入り口として有効ですが、土地をお持ちの方は「地価×評価減」の威力を侮らないでほしいのです。特例をうまく使えば、それだけで数千万円単位の節税効果が生まれることも珍しくありません。
まだ相続対策を「なんとなく生命保険で済ませている」なら、今期中に税理士と一度じっくり話す場を作ることを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。