先日、ある経営者の方から相続の相談を受けました。
都内に住む70代の親御さんが亡くなり、残された財産は自宅の土地がほとんど。金融資産はわずかで、「相続税なんてかからないだろう」と思っていたそうです。ところが路線価を確認してみると、土地の評価額が2億円を超えていた。
「現金がないのに、相続税が数千万円かかるかもしれない」——そう聞いて、相続人の兄弟たちは顔面蒼白になったといいます。ところが税理士に相談したところ、ある特例を使えることがわかりました。結果として、相続税はほぼゼロに近い金額まで圧縮されたのです。
評価額が5分の1になる制度がある
「小規模宅地等の特例」という制度があります。
一言でいうと、亡くなった親が住んでいた自宅の土地について、相続税の評価額を最大80%削減できる制度です。対象は330㎡(約100坪)まで。一般的な一戸建ての敷地なら、多くの場合この範囲に収まります。
冒頭の例で数字を見てみましょう。路線価2億円の土地がある場合、通常なら2億円として相続税が計算されます。でもこの特例を使うと、評価額は4,000万円に圧縮されます。差額1億6,000万円分の評価が、丸ごと消えることになります。
相続税の最高税率は55%です。この削減額に対して税がかからなくなるわけですから、節税効果は文字通り億単位になることもあります。「自宅の土地しかない」という方が、実は最も恩恵を受けやすい制度でもあります。
使えるかどうか、3つの要件を確認する
当然ながら、この特例には要件があります。大きく3つ押さえておきましょう。
① 亡くなった方が居住用として使っていた土地であること
投資用不動産や賃貸に出していた土地は対象外です。あくまで「親が実際に暮らしていた自宅の敷地」が対象です。
② 相続する人の条件がある
最も基本的なのは、同居していた親族が相続するケースです。配偶者が相続する場合は、同居の有無を問わず適用できます。子供が全員別居していた場合でも、一定の要件を満たせば適用できる「家なき子特例」という仕組みもあります。ただし近年の法改正で要件が厳格化されており、安易に「使える」と思い込まないよう注意が必要です。
③ 必ず相続税の申告をすること
この特例を受けるには、相続税の申告書を提出し、所定の書類を添付する必要があります。申告しない限り、特例は自動的には適用されません。「申告不要だと思っていた」「知らなかった」では取り返しがつかないのが、この特例の怖いところです。
知っていても間に合わないケースがある
相続の現場でよく耳にするのが「気づいたときには手遅れだった」という声です。
相続税の申告期限は、相続が発生してから10ヶ月以内。この期限を過ぎると、原則として特例を使った申告はできなくなります。「あとで落ち着いてから調べよう」と先送りしているうちに期限を超えてしまった、というケースが残念ながら少なくありません。
また、相続後すぐに土地を売ってしまったり、住まいを移したりすることで特例の適用が認められなくなるケースもあります。「相続したらすぐ売りたい」とお考えの方は、必ず先に税理士へ確認してください。動く順番を間違えると、数千万円の差が生まれることがあります。
親が元気なうちに動いておくのが正解
相続対策は、親が元気なうちにしか打てない手が多くあります。
「親の土地の路線価はいくらか」「誰が同居しているか」「名義はどうなっているか」——こうした情報を今のうちに整理しておくだけで、いざというときの対応がまるで変わります。路線価は国税庁のウェブサイトで誰でも無料で確認できます。
「うちはそんなに財産がないから」と思っている方ほど要注意です。都市部の土地は路線価が高く、金融資産がなくても相続税が数百万〜数千万円かかるケースは珍しくありません。知らずにそのまま申告してしまえば、使えたはずの特例が永遠に消えます。
小規模宅地等の特例は、知っているだけで使えます。ただし使えるのは、正しく・期限内に申告した人だけです。ご両親が住んでいる土地について、一度税理士に相談しておくことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。