先日、賃貸物件を3棟保有する年商2億円の製造業オーナーから、こんな相談を受けました。「税理士に法人移転を勧められたんだけど、今がベストタイミングなのかどうかわからなくて」と。
その社長は個人として賃貸収入が年間1,200万円あり、所得税率はすでに33%に達していました。結論から言えば、このケースは「今すぐ動いた方がいい」典型例でした。
ただ、移転を急いで失敗するケースも珍しくありません。タイミングを1〜2年間違えただけで、節税額が500万円以上変わることもあります。どちらに転ぶかは、3つの基準で判断できます。
基準① 個人の課税所得が年間900万円を超えているか
不動産収入を個人で受け取り続ける場合、所得税の最高税率は45%(住民税を含めると実質約55%)です。一方、法人税の実効税率は34%前後。個人で稼げば稼ぐほど、税の重さが増す構造になっています。
一般的に課税所得が年間900万円を超えると、所得税の適用税率は33%に入ります。このラインを超えたあたりから、法人化の恩恵が数字として見えてきます。
注意したいのは「不動産収入だけ」で判断しないこと。給与所得や事業所得も含めた合計の課税所得で考えてください。数百万円の差で税率が1段上がるだけで、年間の税負担は大きく跳ね上がります。
基準② 不動産の時価が取得時の価格に近いか
「早めに動けばいい」と思うかもしれませんが、ここに大きな落とし穴があります。
個人から法人へ不動産を移転する際は、原則として「時価」で売買しなければなりません。取得時より価格が上がっていれば、その差額が「譲渡益」として課税されます。
たとえば5,000万円で取得した物件が今や8,000万円の評価だったとします。この場合、3,000万円の譲渡益に税金がかかります。短期保有なら譲渡所得税は最大39.63%ですから、移転コストだけで1,000万円を超えることもあります。
理想的なタイミングは「時価≒取得価格」の状態、つまり値上がり前です。価格が上がってしまってからでは、移転コストが節税メリットをあっさり上回ります。
基準③ 法人が3期以上の黒字を維持しているか
移転後、不動産収入は法人の売上になります。これをうまく機能させるには、法人自体に「健全な運営実績」があることが前提条件です。
金融機関からの融資条件や、不動産の名義変更手続きにおいても、法人の信用力が問われます。設立してまもない法人では、融資が通らなかったり、条件が厳しくなったりすることがあります。
目安として、3期以上の黒字決算があれば「安定した法人」と判断されやすくなります。すでに法人をお持ちの方は、その実績を確認してから移転を検討するのが賢明です。
「価格上昇後の移転」が最悪になるケース
特に都心の商業地や人気エリアのマンションを保有している方は、要注意です。
地価が上昇した後に法人移転しようとすると、膨大な譲渡税が発生し、節税どころか大きな出費になります。「不動産価格が上がったからそろそろ移転しよう」という発想は、最も避けるべきパターンです。
移転を考えるなら、価格が落ち着いているタイミング、あるいはまだ値上がりする前に動くことが鉄則です。一度価格が跳ね上がってしまうと、選択肢が一気に狭まります。
3つが揃ったとき、初めて「動き時」になる
法人移転の最適タイミングを整理すると、次の3つが揃ったときです。
- 個人の課税所得が年間900万円を超えている
- 不動産の時価が取得価格に近い(大きく値上がりしていない)
- 法人が3期以上の安定した黒字を続けている
1つでも欠けていると、せっかくの移転が裏目に出ることがあります。「自分はどうだろう」と気になった方は、直近の確定申告書か決算書を手元に置いて、税理士に相談してみてください。
タイミングを1年見誤るだけで、数百万円単位で結果が変わります。動くなら早めに状況を整理しておくことを、強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。