先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「毎月25万円の家賃、全部手取りから払っているんですよ。もったいないとは思うんですが、何かできることはありますか?」
年間300万円もの住居費が、税金と社会保険料を引かれた後のお金から出ていく。これを聞いて、私はすぐに答えました。「それ、会社で払えますよ」と。
住宅費を会社の経費にする仕組み
仕組みそのものはシンプルです。法人が住宅を借り、それを社長に貸し出す——これが「役員社宅」の基本形です。
ポイントは、社長が法人に支払う家賃の額です。市場相場の家賃をそのまま払う必要はありません。国税庁が定めた計算式に基づく「賃料相当額」、固定資産税評価額などをもとに算出された金額だけを会社に支払えばよいのです。
この計算式で出てくる金額は、実際の市場家賃の15〜20%程度になることが多い。残りの80〜85%は会社が負担する形になり、全額が法人の経費として計上できます。
年200万円経費化で、実際いくら得するか
具体的な数字で見てみましょう。
たとえば月額家賃が25万円のマンションを法人名義にし、社長が賃料相当額として月4万円を支払うとします。差額は月21万円、年間では252万円が法人の経費になります。
法人の実効税率が30%なら、節税効果は年間で約75万円。これが毎年継続するわけです。
「月4万円の自己負担で、年間75万円節税できる」と言い換えると、もう少しイメージが湧くかもしれません。生活の質はまったく変わらず、同じ家に住み続けながら、です。
実現するための2つのルート
自宅を役員社宅にする方法は、大きく2つあります。
賃貸物件の場合は、現在の賃貸借契約を個人名義から法人名義に切り替えるのが基本です。大家さんの同意が必要ですが、法人契約のほうが信用力が高いと評価してくれるケースも多く、意外とスムーズに進むことがあります。まずは管理会社や大家さんに打診してみる価値は十分あります。
持ち家(自己所有)の場合は少し複雑になります。社長が所有する自宅を会社に売却するか、法人が新たに物件を購入するかになります。この場合、不動産取得税・登記費用、場合によっては社長側の譲渡所得税も発生します。導入コストが先にかかるため、何年で回収できるかのシミュレーションを事前に行うことが不可欠です。
必ず押さえておきたい注意点
制度を活用するうえで、絶対に外せないルールがあります。
まず、社長が賃料相当額を会社に支払わなかった場合、その全額が役員給与とみなされます。そうなると法人側では損金算入できず、社長側では所得税と社会保険料の対象になる。節税どころか逆効果になりかねません。
賃料相当額の計算には固定資産税評価額が必要で、物件の広さや構造によって計算式が変わります。自己判断で「だいたいこれくらい」と決めてしまうと、税務調査でリスクになる可能性があります。必ず専門家に計算を依頼してください。
また、社宅である以上、法人がきちんと契約主体となり、実態を整えることが重要です。「名義だけ変えた」という状態では、税務調査で役員への利益供与と判断されるリスクがあります。契約書の整備や賃料の振込記録なども、きちんと残しておきましょう。
今期中に一度、試算してみてください
この制度の最大のメリットは、一度仕組みを整えれば毎年自動的に節税効果が続く点です。決算前の駆け込み対策とは違い、継続的に経費が積み上がっていきます。
住宅費は毎月必ず発生するコストです。それを合法的に法人の経費にできるなら、検討しない手はありません。
まずは顧問税理士に「役員社宅の導入シミュレーションをしてほしい」と依頼してみてください。固定資産税評価額と現在の家賃額があれば、具体的な試算ができます。年間の節税額が数字で見えれば、判断もずっとしやすくなるはずです。
社長の住宅費は、多くの方が見落としている節税の盲点です。今期中に一度、試算してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。