先日、製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。\n\n「マンションを2棟、個人名義で持っているんですが、最近の賃貸収入が年600万円を超えてきまして。知り合いに法人化した方がいいと言われたんですが、実際どうなんでしょう?」\n\nこの質問、かなり核心を突いています。600万円という数字には、税務上の”分岐点”が隠されているからです。\n\n## 高所得者の不動産収益は、想像以上に課税される\n\n個人で不動産を保有している場合、賃貸収益は「不動産所得」として申告します。問題はここです——給与所得や役員報酬と合算されてしまうのです。\n\nたとえば役員報酬が2,000万円ある社長に、年600万円の不動産収益が加わるとします。合計で2,600万円。この場合、不動産収益の部分には所得税の高い税率が適用されます。住民税の10%を合わせると、実効税率は50%近くになることも。\n\n年600万円の収益に対して、税負担だけで240万円以上。この数字を見て「払いすぎでは?」と感じるなら、その感覚は正しいです。\n\n## 法人なら同じ収益を「22〜34%」で受け取れる\n\n同じ600万円の不動産収益を、法人で受け取った場合はどうなるか。\n\n中小企業の法人税実効税率は、軽減税率などを含めると概ね22〜34%程度です。個人の税率と比べると、10〜15%以上の差があります。\n\n仮に税率差が15%の場合、600万円に対して年間90万円の節税効果が生まれます。10年間持ち続ければ、それだけで900万円の差です。「法人化を検討しなかった」というのは、静かにお金が流れ出ていた状態とも言えます。\n\n## 「年600万円」が目安になる理由\n\n税理士の間では、不動産収益が年600万円前後を超えてくると法人化の経済合理性が生まれやすい、と言われています。\n\nなぜかというと、法人を維持するにはコストがかかるからです。法人設立費用(20〜30万円程度)、税務申告費用、社会保険料の増加——これらのランニングコストを上回るほどの節税効果が出てくるのが、おおよそ600万円という水準だということです。\n\n収益が大きくなるほど節税メリットは拡大していくので、「超えたら即検討」と覚えておいて損はありません。\n\n## 法人化には「移転コスト」がかかる点も知っておく\n\nただし、すでに個人で保有している物件を法人に移す場合、注意が必要です。\n\n物件を法人に売買で移転すると、不動産取得税・登録免許税が発生します。さらに、取得価額より時価が上がっている物件では、譲渡所得税も生じます。物件によっては「移転コストだけで数百万円」というケースもあります。\n\n対処法としては、大きく3つの選択肢があります。\n\n- 売買で移転する(すぐに節税効果が出るが、移転コストがかかる)\n- 現物出資で移転する(会計処理が複雑だが税務上有利な場合も)\n- 次に買う物件から法人で取得する(移転コストゼロ、新規購入から法人化)\n\n特に既存物件の含み益が大きい場合は、「次から法人で買う」戦略が現実的なケースも多いです。\n\n## まず自分の実効税率を確認してほしい\n\n「法人化した方が得か」の結論は、一律には出ません。役員報酬の水準、収益規模、物件のローン残高、法人維持コスト——これらを総合的に試算して初めて答えが出ます。\n\nまず確認してほしいのは、今の自分の実効税率です。不動産収益と役員報酬を合算したとき、35%を超えているようであれば、法人化の検討は十分に価値があります。\n\n不動産収益が600万円に近づいてきた、あるいはすでに超えているなら、今期中に一度きちんと試算しておくことをおすすめします。「いつか考えよう」と先送りにしている間にも、毎年90万円規模の差が積み上がっているかもしれません。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。
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