先日、年商3億ほどの卸売業を営む社長から「決算が近いのに、今期は利益が出すぎて困っている」という相談を受けました。
「困っている」という言葉が少し引っかかりましたが、話を聞けばすぐにわかります。利益が増えれば税金が増える。設備投資に回せるタイミングでもない。保険もすでに活用済み。手詰まり感がある、という状況でした。
こういうケースで必ず確認したいのが、不動産を法人名義で保有しているかどうか、そして減価償却をきちんと活用できているかどうかです。
法人で1億の物件を買うと、毎年400万円が自動的に経費になる
結論から言います。法人で1億円の木造アパートを購入すると、毎年約400万円が現金を追加で支出することなく、自動的に経費として計上されます。
これが「減価償却」という仕組みです。建物は時間が経つにつれて老朽化します。税務上、この「目減り分」を毎年一定額ずつ経費として認めているのが減価償却費で、木造建物の法定耐用年数は22年。建物部分を耐用年数で割るだけで、毎年の経費計上額が決まります。
仮に1億円の物件で、土地1,200万円・建物8,800万円だったとすると:
8,800万円 ÷ 22年 ≒ 400万円/年
この400万円が、何もしなくても毎年勝手に経費として落ちてくる。これが不動産の減価償却の最大の魅力です。
「年400万の経費」と「年400万の節税」はまったく別の話
ここで多くの社長が誤解されるポイントがあります。
「年400万円の経費になる」と「年400万円の節税になる」はイコールではありません。税金が減るのは、あくまでも「増えた経費 × 税率」の部分だけです。
法人の実効税率はおよそ34%(法人税・法人住民税・法人事業税を合算した実態値)。400万円の経費が増えると、税負担の軽減額は:
400万円 × 34% ≒ 136万円
つまり年間136万円が税負担として浮いてくる、というのが正確な数字です。「400万円の節税」ではない。
ただ、これが1年で終わらないところが不動産の強みです。
136万円 × 10年 = 1,360万円
10年間で1,360万円以上の差が生まれます。物件を保有し続けるだけで、これだけの金額が変わってくるのです。
実際の金額を決める3つの変数
「じゃあ1億の物件を買えば必ず400万円の経費になるのか」というと、実際はそう単純ではありません。
土地と建物の割合
減価償却の対象になるのは建物のみです。土地は何年経っても価値が変わらないという考え方なので、経費化できません。同じ1億円でも、土地が7割を占める都心の一棟マンションと、土地が2割の地方木造アパートでは、減価償却できる金額がまったく異なります。
建物の構造
木造(22年)・軽量鉄骨(19〜27年)・RC造(47年)と、構造によって耐用年数が大きく変わります。RC造で同じ建物価格なら、年間の経費化額は木造の半分以下になることも珍しくありません。節税目的で物件を選ぶなら、構造は最初に確認すべきポイントです。
法人の利益規模
減価償却費は、法人の利益を圧縮するためのコストです。そもそも利益が少ない法人では、効果を使いきれないことがあります。逆に言えば、毎期安定した黒字が出ている法人こそ、この手法の恩恵を最大限に受けられます。
「自動経費」という発想で法人の税負担を設計する
減価償却の本質は、「キャッシュフロー」と「帳簿上の利益」を意図的に乖離させることにあります。
現金は手元に残りながら、帳簿の利益だけを圧縮できる。法人保険や設備投資も経費化はできますが、現金が出ていきます。一方で不動産の減価償却は、物件を取得さえしてしまえば、以降は何もしなくても毎年経費が自動的に落ちてくる「自動経費」としての性質があります。
これが中長期の節税設計において非常に強力な理由です。
「不動産に興味はあるけど、税務がよくわからなくて踏み出せていない」という社長は、まず顧問税理士に「法人で不動産を持った場合の試算を出してほしい」と一言相談するだけでも、視界がかなり開けてきます。売却時の課税も含めた出口設計まで、早いうちから整理しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。