先日、顧問先の社長からこんな連絡が入りました。

「先生、今期の利益が想定より300万円ほど多く出そうなんですが……今から役員報酬って上げられますか?」

決算月が6月のその会社。連絡が来たのは5月末でした。残念ながら、変更できる「3ヶ月の窓口」はとっくに閉まっていました。

こういうご相談、毎年この時期にいただきます。そして毎回、同じことを伝えなければならないのが、税理士として正直しんどいところです。

役員報酬には「変更できる窓口」がある

役員報酬を損金として認めてもらうためには、「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。

定期同額給与とは、毎月同じ金額が支払われる役員報酬のこと。これを変更できるのは、原則として事業年度の開始から3ヶ月以内に決議した場合だけです。

決算月が3月なら、4月・5月・6月が変更できる窓口。6月決算なら7月・8月・9月。この期間を過ぎて金額を変えると、変更前後の差額部分は損金として認められず、その分の法人税がそのままかかってきます。

「決算が終わってから考えよう」と思った瞬間、もう手遅れなのです。

月10万円の見直し余地が、年間でどう膨らむか

「月10万円くらい、最適化できるかもしれない」という会社は、実はそう珍しくありません。

この10万円を年間で換算すると、120万円の追加経費になります。法人実効税率が30%の会社であれば、この120万円が損金に入ることで、法人税が約36万円減ります。

逆に言えば、見直し期を逃すたびに36万円を余分に国に納めていることになります。

しかもこれが来年も、再来年も積み重なります。5年で180万円、10年で360万円。「払わなくてよかった税金」が、気づかないうちにじわじわと積み上がっていくのです。

最適な役員報酬額は「人によって全然違う」

「じゃあ、できるだけ高く設定すればいいのでは?」と思うかもしれませんが、そう単純ではありません。

役員報酬を上げると、法人の課税所得は減る一方で、個人の所得税・住民税と社会保険料が増えます。この3つのバランスが最適なポイントを探ることが、本当の意味での節税設計です。

たとえば、役員報酬を月20万円増やしたとき、社会保険料の増加分(法人・個人合計)が月8万円だとすると、実質的な節税メリットは思ったほど大きくないかもしれません。一方、個人の所得がまだ高い税率のブラケットに入っていない場合は、役員報酬を増やすことで思わぬ節税効果が出ることもあります。

最適解は、会社の利益規模・役員個人の収入水準・扶養家族の人数・配偶者の収入の有無など、その人固有の事情によって変わります。「この金額が正解」とは一概には言えないのが、正直なところです。

毎年逃してしまう「本当の理由」

なぜ多くの社長が見直し期を逃してしまうのか。原因のひとつは、「決算が終わってからゆっくり考えよう」という習慣です。

でも3ヶ月の窓口は、決算直後から始まります。決算が終わった安堵感の中で「そのうち」にしていると、気づいたときには窓口が閉まっています。

もうひとつの原因は、「今期どれくらい利益が出るか」を早い段階で把握できていないことです。5月末に「利益が多く出そう」と気づいても、6月決算の会社ではもう間に合いません。できれば期末の3〜4ヶ月前には、今期の着地見込みをシミュレーションしておきたいところです。

今からできること

今期の見直し期がすでに過ぎていたとしても、今からできる準備があります。

まず、今期の利益着地の見込みを早めに把握すること。そして担当の税理士に「来期の役員報酬、シミュレーションしてほしい」と一言伝えること。この2つだけで、来期の3ヶ月の窓口を無駄にするリスクはぐっと下がります。

役員報酬の最適化は、派手な節税スキームではありません。でも毎年確実に効いてくる、地味で強い節税手法のひとつです。窓口が開いているうちに、ぜひ一度立ち止まって確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。