先日、ある建設業の社長からこんな話を聞きました。「税理士に『もう今期は役員報酬、変えられませんよ』と言われたんだけど、どういうこと?」と。

決算の数字が出てから気づいても、もう手遅れ。その社長は「今年こそ変えようと思っていたのに」という言葉を残して、次の決算期を待つことになりました。

これ、じつは毎年どこかの会社で繰り返されているパターンです。そして多くの社長が、知らないまま毎年数百万円を余分に納税し続けているとしたら——少し怖い話だと思いませんか?

役員報酬はなぜ年に一度しか変えられないのか

役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。毎月同じ金額を支払うことが条件で、原則として1年間は金額を変更できません。

このルールが存在する理由はシンプルです。もし自由に変えられてしまうと、「利益が多い年は報酬を増やして法人税を減らす」という操作ができてしまう。それを防ぐために設けられた規定です。

では、いつなら変えられるのか。答えは事業年度開始から3か月以内です。3月決算の会社であれば、4月・5月・6月——この3か月間だけが、役員報酬を見直せる唯一のチャンスになります。

55%と22%、30%を超える差の正体

なぜこの3か月がそれほど重要なのか。税率の数字を並べると、その理由がすぐ見えてきます。

役員が個人で受け取った報酬には、所得税と住民税がかかります。累進課税の構造で、高所得になるほど税率が上がり、最高では所得税45%+住民税10%で合計55%。稼いだお金の半分以上が税金として消えていく計算です。

一方、法人に利益を残した場合の実効税率は、中小企業なら最小で約22%。この差は30%を超えます。

仮に1,000万円の利益をどちらで受け取るか、単純に比較してみましょう。

個人で受け取れば、税負担はざっくり550万円。手元に残るのは450万円です。同じ金額を法人に残せば、税負担は約220万円。手元(法人内)には780万円が残ります。

その差は330万円。これが毎年積み重なれば、10年で3,000万円以上の差になります。

「報酬を下げれば節税」はシンプルすぎる

ここで一つ注意が必要です。「じゃあ役員報酬を思い切り下げれば節税になるんだな」と単純に考えると、落とし穴にはまります。

役員報酬を下げると個人の所得税・住民税は減りますが、法人に利益が残れば法人税が増えます。さらに、社会保険料は報酬額に連動しているため、報酬を下げれば社会保険料の負担は減る一方、老後の年金受給額にも影響が出てきます。

最適な報酬額は、会社の規模・今期の利益見込み・個人の生活費・社会保険のバランスによって変わります。「いくらにすれば正解」という一律の答えはなく、毎年のシミュレーションが欠かせません。

税務署は絶対に教えてくれない

これが、この話の一番大事なポイントです。

税務署は「あなたの役員報酬、こう変えた方が節税になりますよ」とは、絶対に教えてくれません。申告書を出せば、問題がなければそのまま受理されるだけです。

損をし続けている社長の多くは、悪意があるわけでも怠慢なわけでもなく、ただ「知らなかった」だけです。4〜6月が唯一の見直しタイミングだと気づかず、7月になってから「しまった」となるケースが毎年起きています。

3月決算の会社なら、今がその窓口です

もし3月決算の会社を経営しているなら、今まさにそのタイミングが開いています。

3月決算以外の会社は、「自社の事業年度が始まった月から3か月以内」を計算してみてください。6月決算なら7〜9月、9月決算なら10〜12月が、それぞれの見直し期間です。

そのタイミングが来たら——「去年と同じでいいか」と流してしまうのが一番もったいない選択です。税理士に連絡を入れて、今期の利益見込みをもとにシミュレーションを依頼してみてください。たったその一手が、年間で数百万円の差を生むことがあります。

役員報酬の最適化は、合法的な節税手法の中でも効果が大きく、かつ毎年使えるものです。だからこそ、一度だけでなく毎年向き合う価値があります。今期の窓口を、ぜひ活かしてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。