「決算が終わってから役員報酬を変えようとしたら、税理士に止められました。もう1年変えられないって…」

都内で製造業を営むある社長から、こんな話を聞いたのは年度末のことでした。もったいない話だと思いつつも、正直なところ「毎年この時期に来る相談だな」と感じたのも事実です。

役員報酬の見直しには、多くの社長が知らない「タイムリミット」があります。このタイミングを逃すと、次のチャンスは1年後——。知っているかどうかだけで、年間数百万円の差が生まれます。

期首から3ヶ月。この期限を1日でも過ぎると丸1年が消える

法人の役員報酬は「定期同額給与」といって、原則として毎月同じ金額を支払い続けなければなりません。そして変更が認められるのは、事業年度開始から3ヶ月以内という原則があります。

1日でも期限を過ぎると、変更した部分は損金(経費)として認められなくなります。「来月から上げよう」と思ったときには、すでに手遅れ——というケースが実に多いのです。

知っている社長は、決算が終わった瞬間から次の期首に向けて役員報酬を逆算して動きます。逆に知らない社長は、毎年この節税機会を丸ごと見逃し続けています。同じ会社規模でも、この一点だけで年間の手取りが大きく変わってくるのです。

年1000万円の設定で、法人・個人合わせて約260万円の節税効果

では、具体的にどれくらいの節税になるのか。

役員報酬を年1,000万円に設定した場合、法人側では全額が損金に算入されます。これにより法人税が圧縮されます。同時に個人側では「給与所得控除」が適用されるため、受け取った1,000万円に対する課税所得は実際の受取額よりも大幅に小さくなります。

法人と個人を合算した節税効果は、年間で約260万円に達することがあります。これは、役員報酬の設定を見直さなかった場合に毎年「捨てていた」金額です。5年で1,300万円、10年で2,600万円——こう並べると、改めてその重さを感じます。

もちろん、最適な金額は会社の利益水準や社長の他の所得状況によって変わります。「1,000万円が絶対正解」ではありませんが、設定を最適化するだけでこれほどの差が生まれる、という事実は覚えておいて損はないでしょう。

不動産法人化を組み合わせると「二段階節税」が完成する

役員報酬の最適化ができたら、次に検討したいのが不動産を保有している社長向けの手法です。

個人で賃料収入を得ている場合、所得税の累進課税でどんどん税率が上がっていきます。年収が増えるほど手取りが目減りしていく構造です。これを不動産管理法人や資産管理法人に移すことで、法人税率の恩恵を活かせるようになります。法人の実効税率は概ね20〜30%台に収まることが多く、個人の最高税率55%と比べるとその差は歴然です。

役員報酬の最適化と不動産法人化を組み合わせると、こういう流れになります。

  • 第一段階:役員報酬を適切に設定して法人税を圧縮し、個人手取りを増やす
  • 第二段階:不動産収益を法人に移し、高い個人課税を回避する

この二段階で動くことで、全体の実効税率を大きく引き下げることが可能です。

ただし、順番が肝心です。不動産法人化を先に進めようとした段階で役員報酬が最適化されていないと、法人に移した収益が高い税率でかかってきてしまい、節税効果が半減することがあります。全体を俯瞰した上で「どちらを先に動かすか」を設計してから実行に移すことが不可欠です。

今期を逃したら、次は1年後

役員報酬の改定期限は、毎年同じタイミングで訪れます。そして毎年、知らなかった社長が「来期こそは」と後悔している。

期首から3ヶ月という時間は、意外に短いものです。役員報酬の水準を検討し、税理士と相談し、取締役会の議事録を作成して——といった手続きを考えると、思いついてからすぐ動かないと間に合わなくなります。

今まさに期首から間もないタイミングにいるなら、今日中に税理士へ「役員報酬と不動産法人化、両方を組み合わせた試算をしてほしい」と連絡してみてください。節税は知識よりも「タイミング」で差がつく世界。動けるうちに動いた社長が、着実に手取りを増やしていきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。