先日、年商3億円の建設会社を経営する社長からこんな相談を受けました。「今期は利益が出すぎてしまって、どうにかしたい。でも、もう12月なんです」と。

決算まで残り数週間。できる打ち手は限られていますが、そのときお伝えしたのが「法人不動産による損益通算」という手法です。利益が出ている法人ほど、この仕組みが活きてきます。

現金は出ていないのに経費が増える、減価償却の力

不動産には「減価償却」という仕組みがあります。建物の取得費用を、法定耐用年数に応じて毎年少しずつ経費として計上できる制度です。

たとえば、法人で取得した建物の減価償却費が年間350万円だったとします。現金の支出はすでに完了しているのに、毎年350万円の経費が帳簿に生まれ続けます。これが「キャッシュアウトなき経費」の正体です。

ここに借入金利が加わると、さらに効果が増します。1億円の融資を使って不動産を購入した場合、年利1.5%であれば初年度の支払利息だけで150万円前後。これも当然、損金として算入できます。

初年度に500万円の帳簿赤字が生まれるメカニズム

実際の数字で見てみましょう。

法人が1億5,000万円の中古マンション(建物部分8,000万円)を取得し、短縮耐用年数の適用で残耐用年数が10年だったとします。この場合、減価償却費は年間800万円。借入金利・固定資産税・管理費などを合算すると、不動産事業単体では初年度に500万円前後の赤字が出ることも珍しくありません。

不動産事業はマイナスでも、本業と合算(損益通算)することで、この赤字が課税所得を押し下げる武器になります。

損益通算で課税所得が半分になる

仮に本業の利益が1,000万円だったとします。不動産事業の損失500万円と合算すると、課税所得は500万円に圧縮されます。

法人実効税率を約34%として計算すると、節税効果は次のとおりです。

  • 損益通算なし:1,000万円 × 34% = 340万円の税負担
  • 損益通算あり:500万円 × 34% = 170万円の税負担
  • 差額:170万円の節税

現金は手元に残ったまま、帳簿上の構造で170万円の税が消える。これが損益通算の本質です。

「空室リスクが怖い」への回答

この話をすると、「空室が出たらどうするんですか」という声をよくいただきます。その懸念は正しいのですが、節税目的の不動産はキャッシュフローのプラスより「いかに帳簿赤字を作るか」が主な評価軸です。多少の空室が出ても、損益通算の効果自体は揺らぎません。

むしろ注意すべきは「出口戦略」のほうです。減価償却が進むと建物の帳簿価額が下がり、売却時に大きな利益が表面化します。その売却益に法人税がかかるため、売るタイミングと税率の設計を事前に描いておかないと、節税どころか増税になるケースもあります。

どんな法人が向いているか

すべての法人に使える手法ではありません。特に向いているのは、こういった状況です。

  • 毎期コンスタントに1,000万円以上の課税所得が出ている
  • 事業の安定性が高く、長期保有できる資金力がある
  • 役員報酬の最適化や生命保険などの一次対策は済んでいる

逆に、利益が少ない法人や資金繰りが不安定な法人が無理に取得すると、デメリットのほうが目立ちます。手元資金が潤沢で、かつ節税ニーズが高い段階で初めて本領を発揮する手法です。

今できる一歩

「うちでも使えそうだ」と感じた社長は、まず顧問税理士に「不動産の減価償却を使った損益通算、うちで試算してもらえますか?」と一言かけてみてください。

物件の構造(木造・鉄骨・RC)や築年数によって、減価償却期間と年間計上額は大きく変わります。同じ1億円の物件でも、木造の築古物件と新築RCでは節税効果が倍以上違うこともあります。自社の利益水準と照らし合わせながら、最適な物件タイプを選ぶことが重要です。

利益が出ている今こそ、手を打てるタイミングです。決算ギリギリになってから動いても選択肢が狭まるだけ。余裕のある時期に、腰を据えて検討してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。