先日、不動産を5棟保有するある社長とお話しする機会がありました。「最近また1棟増やしたんですよ」と誇らしげに笑いながら、その方はこう続けました。「節税した差額で買い増してるだけですよ」と。
一見すると謙遜のように聞こえますが、これは非常に的確な資産形成の戦略です。その「差額」とは、法人と個人の間に存在する税率の壁から生まれるもの。制度として存在しているにもかかわらず、多くの不動産オーナーが知らないまま個人で収入を受け取り続けている。今日は、その仕組みをお伝えします。
個人で不動産収入を受け取ると、半分以上が税金に消える
不動産収入を個人として受け取る場合、所得税と住民税を合わせた最高税率は55%に達します。給与所得と合算されるため、もともと高収入の社長や会社オーナーほど、実質的な税率はじわじわと上がっていきます。
年間1,000万円の家賃収入があっても、課税所得に最高税率が適用されれば、手元に残る金額は想像より少なくなります。「たくさん物件を持っているのに、なぜかお金が増えない」という感覚を持つオーナーに多いのが、この税の重さを無視した物件の増やし方です。不動産は増えても、税金でキャッシュが流れ出ていく構造になっていることは少なくありません。
法人で受け取ると、同じ収入がまったく違う顔を見せる
法人を通じて不動産収入を受け取る場合、法人税・地方税・事業税などを合計した実効税率はおおよそ30〜35%程度に収まります。個人の最高55%と比べると、20ポイント以上の開きがあります。
年間1,000万円の不動産収入で試算すると、この税率差は年間150〜200万円以上の違いになります。「たかが20ポイント」と感じるかもしれませんが、10年積み重ねると1,500〜2,000万円です。地方都市なら物件をもう1棟買えてしまう水準の金額です。
さらに、法人の場合は経費の幅も広がります。役員報酬として自分に支払うことで所得を分散したり、家族を従業員として雇用したりと、個人では取れない手が使えるようになります。これが複合的に効いて、実際の手残りはさらに大きく変わってくることもあります。
「差額で次を買い続ける」という戦略の正体
冒頭の社長が言っていた「節税した差額で買い増す」とは、まさにこの仕組みを使い続けることです。法人を通じて収入を受け取ることで手元に残ったお金を、そのまま次の物件取得の頭金や自己資金に回す。そのサイクルを繰り返すことで、物件数が増え、収益規模が大きくなっていく。
個人所有のままだったら税金に消えていたはずのお金が、法人という「器」を使うことで手元に残り、資産形成の燃料として使えるようになる。これが「法人で不動産を増やし続ける仕組みの正体」です。
税務署はこの差をわざわざ教えてくれません。「どちらで所有しますか?」と親切に聞いてくれるのは、物件を売りたい不動産会社の担当者からというケースがほとんどです。制度は、知っている人だけが使える。それが現実です。
ただし、法人化がすべての人に有利とは限らない
法人を使った不動産所有には、当然コストも伴います。法人設立費用・税務申告費用・社会保険料の負担増、そして個人名義の既存物件を法人に移転する際には譲渡所得税が発生するケースもあります。
融資の面でも、個人と法人では金融機関の審査基準が異なります。設立したての法人は実績がなく、融資条件が不利になることもあります。「税率が低いから有利」という単純な話ではなく、物件の規模・収益率・個人の所得水準・今後の拡大計画をトータルで考えた設計が必要です。
すでに個人名義で物件を複数所有している方が法人に移転しようとすると、タイミングと方法を誤ると大きな税負担が発生することがあります。設計ミスを防ぐためにも、専門家への相談は必須です。
まず「試算してもらう」ことから始める
個人名義で不動産を保有していて、毎年の確定申告のたびに税額の大きさに驚いているなら、まず「法人化した場合の試算」をしてみてください。
多くの税理士は初回の試算を無料で対応しています。「今のままだと年間いくら余計に税金を払っているか」が数字で見えれば、次の行動も決めやすくなります。年200万円の差は、10年で2,000万円の差です。気づいた今が動き出すタイミングです。今期中に一度、専門家に相談してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。