先日、建設業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。

「息子に会社を引き継がせたいんですが、顧問税理士に株の評価額を出してもらったら、予想より2倍以上高くて。このまま贈与したら、どれだけ税金を払えばいいのかと途方に暮れています。」

事業承継を考え始めた社長が最初に直面するのが、この「自社株の評価額の壁」です。会社が順調に成長している分だけ評価額も高くなっている。本来は喜ばしいことのはずなのに、相続・贈与の場面では重い税負担として跳ね返ってきます。

ただ、この評価額は「合法的に下げる手段がある」ということを知らない経営者が、まだまだ多いのが現実です。

不動産が「株価を下げる装置」になる仕組み

法人が不動産を購入すると、自社株の相続税評価額が下がります。株価の計算に使われる純資産評価額は、会社が保有する資産を「相続税の評価基準」で計算し直すからです。

ここで重要なのが、不動産には「時価と相続税評価額の間に大きな差がある」という特性です。土地の相続税評価額(路線価方式)は時価の80%前後、建物は固定資産税評価額ベースで時価の60〜70%程度になることが多いです。時価1億円の不動産でも、相続税評価額は7,000〜8,000万円になるイメージです。

つまり、会社が現金1億円を保有しているより、同額で不動産を購入した方が、株価計算上の資産価値が2,000〜3,000万円分「圧縮」されるわけです。これが、法人不動産を活用した株価引き下げの基本的な仕組みです。

「40%圧縮」が実現できる理由

「40%も下がるなんて大げさでは?」と感じるかもしれませんが、これは不動産の組み合わせや活用方法によって十分に実現できる数字です。

土地と建物をセットで取得し、その建物を賃貸に出して収益物件として運用すると、「貸家建付地」や「貸家」の評価減が追加で適用されます。借地権割合・借家権割合が加味されることで、評価額はさらに圧縮される仕組みになっています。

都市部の賃貸マンション一室でも、路線価・借地権・借家権の3段階で圧縮が効き、時価の40〜50%台まで評価が落ちるケースは珍しくありません。

贈与税差額が3,000万円を超えることも

具体的な数字で確認してみましょう。

株価1億円の非上場会社があったとします。このまま後継者に贈与すると、最高税率55%が適用される部分が出てくるため、手取りが大幅に目減りします。ここで事前に法人で不動産を取得し、株価を6,000〜7,000万円台まで引き下げておくと、贈与税の計算ベースが変わります。適用される税率の区分も変わるため、最終的な贈与税額の差が3,000万円を超えるケースも出てきます。

「株価を下げておく準備」を何年かかけてできるかどうか。それだけで、後継者が将来払う税金に億単位の差が生まれることがあります。

やってはいけない「失敗パターン」

ただし、「不動産を買えば何でも株価が下がる」と単純に考えると、大きな落とし穴があります。

取得タイミングの問題が一番のリスクです。相続直前・贈与直前に購入した不動産については、「租税回避を目的にした取引」と税務署にみなされる可能性があります。近年、相続税の節税目的と認定された不動産に対して財産評価基本通達6項を適用した否認事例も出てきており、慎重な判断が必要です。

次に、不動産の種類と活用状況の問題。空き地や未稼働の物件は評価減の恩恵が小さくなります。きちんと賃貸に出して「稼働している資産」として計上できるかどうかが、圧縮効果の大きな分かれ目になります。

法人と個人どちらで持つか、借入を活用するかどうかによっても効果は変わります。「不動産さえ買えばいい」という話ではなく、会社のバランスシート全体を見ながら設計することが重要です。

事業承継は「5年前から動く」が鉄則

株価の引き下げは一朝一夕にできません。不動産取得から評価が安定するまでに一定の時間が必要ですし、「いつ後継者に株を移すか」という全体スケジュールとの整合性も欠かせません。

事業承継を「いつかやること」にしていると、気づいたときには後継者が高い税金を払い続ける状況になっています。早く動くほど取れる手が増える——これが事業承継の鉄則です。

まずは自社株の現在の評価額を把握し、不動産活用を含めた対策の余地があるかどうかを、事業承継に詳しい税理士と一度確認してみてください。「まだ先でいい」と思っているうちに、選択肢は一つずつ閉じていきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。