先日、顧問先の社長からこんな一言をもらいました。「会社は順調なのに、なんでこんなにお金が残らないんですかね」。
売上は右肩上がり、利益も出ている。それなのに手元に残る感覚がない。そういう社長に共通しているのが、「業績が上がるたびに役員報酬も上げてきた」という習慣です。これは一見まっとうな判断に見えて、実は最も手取りを削る選択になっていることがあります。
稼いだ半分以上が税金に消える現実
日本の所得税は累進課税です。収入が増えるほど税率が上がっていく仕組みで、課税所得が4,000万円を超えると最高税率は45%に達します。そこに住民税10%が加わると、合計55%。
役員報酬が高い社長ほど、増やした収入のほぼ半分以上が税金として消えていきます。たとえば報酬を年間100万円増やしても、手取りとして残るのは45万円前後、というケースも珍しくありません。
「こんなに稼いでいるのに、なぜ豊かにならないんだろう」と感じている社長は、この55%の壁にぶつかっている可能性が高いです。
法人に残すと税率は約22〜23%
同じお金でも「誰が持つか」で税率が大きく変わります。
法人税の実効税率は、所得800万円以下の中小企業であれば約22〜23%程度です。個人で受け取った場合の55%と比べると、30%以上の差があります。
具体的な数字で見てみましょう。300万円を個人で受け取ると、税率50%なら手元に残るのは150万円。同じ300万円を法人に留保すれば、税率22%なら234万円が残ります。その差は84万円。これが毎年積み上がっていくわけです。
年300万円下げると、手取りはむしろ増える
「役員報酬を300万円下げる」と聞くと、損した気がしますよね。でも数字で見ると逆になることが多いです。
高い税率のかかる部分の役員報酬を意図的に下げ、その分を法人内に留保する。個人では税引後に150万円しか残らなかったお金が、法人に留めることで230万円超の可処分資金として活用できるようになります。
節税とは「払わなくていい税金を払わないこと」です。税率の低い法人に資金を残しながら活用する、というのはその基本中の基本でもあります。
法人に留めたお金を「不動産」に変える発想
法人に留保した資金を遊ばせておく必要はありません。有効な活用先の一つが、法人名義での不動産投資です。
法人で不動産を持つと、ローン返済・管理費・修繕費・減価償却費などを法人の経費として計上できます。個人で不動産を持つ場合と比べ、損益通算できる範囲が広く、節税効果が出やすい構造です。
さらに、法人資産として不動産を積み上げることは、将来の事業承継や相続対策とも組み合わせやすいという利点があります。個人の財産をただ積み上げるより、法人という器を使って資産を組み替えながら管理していく考え方です。
下げすぎにも注意点がある
ただし、「とにかく役員報酬を下げればいい」というわけではありません。
報酬を下げすぎると、住宅ローンの審査や個人の生活費の確保に影響が出ることがあります。社会保険の等級とも連動するため、将来の年金受給額が変わる可能性もあります。扶養家族の人数や、他の収入源があるかどうかによっても、最適な金額はまったく変わります。
「いくらが正解か」は、会社の規模・業種・家族構成・将来の引退時期など、個人の状況を踏まえてトータルで設計するものです。誰かの事例がそのまま当てはまるとは限りません。
変更できるタイミングは年に一度だけ
役員報酬の変更には税務上のルールがあります。原則として、事業年度の開始から3ヶ月以内に決議しなければ、変更分が損金として認められません。
「来期から変えよう」と思ったら、決算後すぐに動く必要があります。決算が近づいてから慌てて変更しようとしても、間に合わないどころか税務上のリスクになる場合もあります。
「役員報酬をなんとなく上げ続けてきた」という心当たりがある社長は、来期に向けた見直しを今から考え始めてみてください。税理士と一緒に個人と法人の税率バランスを設計することが、最も確実な手取り改善の第一歩になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。