先日、ある社長からこんな相談を受けました。「家賃25万円のマンションに住んでいるんですが、これって何とかなりませんか?」

決算が近づくたびに「もっと経費にできるものはないか」と頭を悩ませる方は多いです。でも、意外と見落とされているのが毎月払っている自宅の家賃なんです。知っているかどうかだけで、年間数十万〜百万円単位の差が生まれる制度があります。

法人が「借りて」社長に「貸す」だけの話

結論から言うと、法人名義で物件を借り上げ、それを社長に転貸するという形にするだけで、家賃の大部分を会社の経費にすることができます。これが「役員社宅制度」です。

通常は社長が個人として家賃25万円を支払います。これは個人の支出なので、会社の経費にはなりません。でも、法人が先に賃貸契約を結び、その物件を社長に「社宅」として提供する形にすると話が変わります。

社長が会社に払う家賃は、税法上の計算式(賃貸料相当額)で算出した金額でOK。これが市場家賃の10〜20%程度になることが多く、残り80〜90%を会社が負担しても全額経費として認められます。

月25万円の家賃が、年240万円の経費になる

具体的な数字で見てみましょう。

月25万円のマンションの場合、法人が毎月支払う家賃は25万円。一方、社長が会社に払う「賃貸料相当額」は物件の固定資産税課税標準額などをもとに計算され、3〜5万円程度になることが多いです。差額の20〜22万円が会社の実質負担となり、年間240〜264万円が法人の経費に変わります。

実効税率30%で計算すると、年間72〜79万円の節税効果です。社長の手出しは実質3〜5万円に圧縮できるわけですから、かなりインパクトのある話だとわかります。

しかも、会社が経費計上できるだけでなく、社長の側も給与課税されません。役員報酬として25万円もらって家賃を払えば、所得税・住民税・社会保険料がかかります。役員社宅にすることで、その税負担も回避できる点が二重においしいんです。

なぜ多くの社長が知らないのか

税理士から積極的に提案されることが少ない制度です。計算が複雑なこと、物件によって節税効果がまちまちなこと、そして誤った計算で否認されるリスクがあること。この3点が重なって、「面倒だから触れない」という税理士も少なくないのが実情です。

ただ、きちんと活用している社長と、まったく知らない社長では、10年単位で見たとき手元に残るお金が数百万〜一千万円単位で変わってきます。知らないのは本当にもったいない。

否認されないための3つのポイント

役員社宅が税務調査で否認されるケースには、パターンがあります。

一番多いのが「賃貸料相当額」の計算ミスです。 税法では固定資産税の課税標準額を使った計算式が定められていますが、この数字は物件によって異なります。感覚で「10%払えばいい」とやると、後から追徴課税になります。

次に多いのが契約や振込の形式が整っていないケース。法人と大家の賃貸借契約書がない、振込口座が個人名義のまま、といった状態だと「実態は個人の家賃と同じ」と認定されます。契約書の整備と銀行口座の名義変更は必ず行いましょう。

そして豪華社宅への注意。床面積240㎡超など一定の基準を超えると「豪華社宅」として別の規定が適用され、節税効果が大幅に薄まります。都市部の高層タワーマンションを検討している場合は、事前に確認が必須です。

今住んでいる家賃でも適用できる?

「すでに個人で契約している自宅を、法人に切り替えられるか」という質問もよく受けます。答えはYESです。個人の賃貸借契約を解約し、法人として新たに契約し直す必要はありますが、現在お住まいの物件でも使えます。

大家さんによっては法人契約を嫌がるケースもありますが、更新タイミングや引越しのタイミングに合わせて切り替えるのが現実的です。

まだ役員社宅制度を活用していないなら、今期の決算前に一度税理士に「賃貸料相当額の計算と法人契約への切り替え手順を確認したい」と相談してみてください。たったそのひと言で、毎年の節税額が大きく変わるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。