ある建設会社の社長から、先日こんな相談を受けました。

「息子に会社を引き継がせたいんですが、株価が高すぎて……相続税の試算を見た瞬間に頭が真っ白になりました」

年商5億円、業歴30年の優良企業です。利益をコツコツ積み上げてきたからこそ、内部留保が厚く、株価もずっしり重い。事業承継を考えた途端に、その「優良さ」が足かせになる——これは決して珍しい話ではありません。

この問題を解決する手段のひとつとして、近年注目されているのが「不動産による株価圧縮」です。正しく設計すれば、会社の株価を5億円単位で引き下げることも現実的に起こりえます。

なぜ「純資産」が株価を左右するのか

非上場の中小企業の株式は、証券取引所では売買されていません。そのため、相続や贈与の場面では税務上の評価額を計算する必要があり、その代表的な手法が「純資産価額方式」です。

簡単に言うと、会社の資産から負債を引いた「正味財産」をベースに株価を算定する方式です。業績が良く、内部留保が厚い会社ほど純資産は膨らみ、株価も高くなります。

事業承継の文脈では、この純資産をいかに適正な範囲で抑えられるかが、相続税・贈与税の規模を大きく左右します。

不動産を買うと、なぜ株価が下がるのか

ここで登場するのが、不動産特有の「評価差」です。

たとえば、時価5億円の収益不動産を会社名義で購入したとします。土地の相続税評価額(路線価ベース)は一般的に時価の70〜80%程度に収まることが多く、建物の評価額(固定資産税評価額)も時価より低くなります。

仮に5億円で買った物件の相続税評価額が3億円だったとすると、差額の2億円分が純資産から差し引かれ、結果として会社の株価が下がります。不動産の評価差が、そのまま株価の圧縮効果に変換される仕組みです。

取得から3年以内は「時価評価」になる

ただし、ここには重要な落とし穴があります。

純資産価額方式では、取得から3年以内の不動産は相続税評価額ではなく「時価」で評価されます。つまり5億円で購入した物件は、取得後3年間は5億円のまま計上され続けるため、株価圧縮の効果がほとんど出ません。

評価差が生まれるのは、取得から3年が経過してからです。「承継の直前に慌てて不動産を買っても意味がない」という話はよく聞きますが、この3年ルールがその理由です。事業承継のタイミングから逆算して、少なくとも3〜5年前には手を打っておく必要があります。

さらに37%の法人税等相当額控除も乗ってくる

純資産価額方式にはもう一つ、見落とされがちな規定があります。含み益(評価差額)に対して37%の「法人税等相当額」を控除できるという仕組みです。

評価差額が2億円あった場合、そこにかかる37%、つまり7,400万円を差し引いた金額が実際の圧縮額に反映されます。評価差が大きければ大きいほど、この控除額も膨らみます。

不動産の評価差と37%控除が組み合わさることで、株価圧縮の効果は数字以上に大きくなるケースも少なくありません。

「節税目的」だけで動くのは危険

ここで一点、強調しておきたいことがあります。

株価圧縮効果だけを目的に不動産を購入するのは、順番が逆です。賃貸収入の安定性、流動性、管理コスト、借入の影響——こうした事業上の判断が先にあるべきで、「結果として株価圧縮の恩恵も受けられる」という順番で考えることが大切です。

「株価が下がるから」という一点だけで数億円の不動産を取得すると、資金繰りの悪化や不良資産のリスクを抱えることになりかねません。評価の細かい計算も、物件の種類・立地・借入状況によって大きく変わります。試算は必ず税理士と不動産の専門家を交えて行うようにしてください。

動くなら、今から準備を始めてください

事業承継は「決めてから動く」では間に合わないことがほとんどです。不動産を使った株価圧縮は、承継の数年前から準備してこそ効果が最大化されます。

まずは自社株の評価額を一度試算してみることをおすすめします。数字を目にした瞬間に「今すぐ動かなければ」と感じる社長がほとんどです。そう思ったときが、対策を始める一番いいタイミングです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。