先日、金属加工業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。

「専門家に事業承継の試算をしてもらったら、2億円以上かかると言われて頭が真っ白になった。息子に継がせたいのに、これじゃ会社が持たない」

気持ちはよくわかります。中小企業の事業承継には、相続税・贈与税・自社株の評価額という3つの壁が一気に立ちふさがります。何も手を打たなければ、苦労して育てた会社の存続が危うくなることも珍しくありません。

でも実は、この承継コストを合法的に大幅に削減する方法があります。今日は法人不動産を活用した自社株評価の圧縮スキームをお伝えします。

事業承継が高くつく本当の理由

問題の本質を整理しましょう。なぜ事業承継はここまでコストがかかるのか。

答えのひとつは「自社株の評価が実態より高くなる」ことにあります。税務上、中小企業の株式は帳簿上の純資産をベースに評価されます。業績が良く、内部留保がしっかりある会社ほど株価が高くなる仕組みです。要するに「会社が順調なほど承継コストが膨らむ」という逆説が生まれます。

この評価を合法的に下げるのが、収益不動産を資産管理会社に移すアプローチです。

3ステップで承継コストを圧縮する

具体的な手順を順に見ていきましょう。

ステップ①:資産管理会社に収益不動産を移す

まず、社長個人や本業の法人が保有する賃貸物件(マンション、テナントビル等)を、新たに設立した資産管理会社へ移します。

重要なのは「移し方」です。不動産を時価ではなく相続税評価額ベースで移すことで、多くの場合、実勢価格の50〜60%程度の評価に抑えられます。借入金を一緒に移すことで、純資産をさらに圧縮できるケースもあります。

ステップ②:賃料を資産管理会社に集約して株価を圧縮する

不動産が資産管理会社に移ると、賃料収入もそこに集約されます。法人内に留保される現金は資産として評価されますが、役員報酬や借入返済にあてながら純資産の膨張を抑えることで、株価を継続的に低く保つことができます。

こうして資産管理会社の株価を計算してみると、本業法人の株価に比べて大幅に低く算定されるケースが多いです。

ステップ③:評価が下がった株を後継者へ贈与する

最後に、株価が十分に下がったタイミングで後継者(息子・娘、あるいは幹部社員)へ贈与または売却します。評価額が下がれば、贈与税・相続税の課税対象となる金額も連動して縮小します。

あるケースでは、当初5億円と試算された承継コストが、このスキームを活用することで1.5億円前後まで圧縮できました。70%近い削減です。

「やってみたい」と思ったら確認すること

このスキームは効果的ですが、不動産評価・法人税・相続税が複雑に絡み合います。特に以下の点は事前に必ず確認を。

  • 移転のタイミング:贈与前の一定期間内に行われた財産移転は、相続財産に加算される場合があります
  • 同族株主の判定:誰が後継者になるかにより、株式の評価方式(類似業種比準・純資産)が変わります
  • 小規模宅地等の特例との兼ね合い:場合によっては別の手法の方が有利なこともあります

「うちは不動産を持っていない」という社長も、これを機に収益不動産の法人保有を検討する価値があります。個人で持つより法人で持つ方が、費用計上・承継の両面で有利なケースが多いからです。

準備は早ければ早いほどいい

事業承継の対策は「早すぎる」ということがありません。不動産移転→株価圧縮→贈与というプロセスには、最低でも3〜5年かかります。60代になってから慌てて動いても、十分な節税効果が出ないこともある。

まずは現在の自社株評価額を専門家に試算してもらい、「何もしなければいくらかかるか」を把握することから始めてください。その数字を見れば、いつ、何から動くべきかが自然と見えてきます。今期の決算が終わったタイミングが、相談を始めるには絶好の機会です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。