先日、純資産10億円の製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。「息子に会社を渡す準備を始めたんですが、税理士に試算してもらったら相続税が3億円を超えると言われて…。どうにかなりませんか」
正直、この金額を聞いて驚く経営者は多いです。でも、純資産規模を考えると珍しい数字でもありません。事業承継における「自社株の相続税」は、多くの経営者が見落としてきた最大のリスクのひとつです。
なぜ、自社株の相続税はこれほど重くなるのか
中小企業の自社株は、相続税の計算上「純資産価額方式」などで評価されることが多く、会社に蓄積された資産がそのまま株価評価に反映されます。現金・預金が10億円あれば、その分だけ株の評価額も高くなる構造です。
純資産10億円規模の会社であれば、後継者への株式移転に伴う相続税が3〜4億円に達することも珍しくありません。「息子に会社を継がせたら、息子が税金の支払いで苦しむ」という事態は、決して絵空事ではないのです。
では、どうすれば自社株の評価額を引き下げられるのか。そこで登場するのが「法人での不動産保有」という戦略です。
手法①:路線価評価で現金より評価を3割下げる
現金10億円は、相続税の計算上、評価額も10億円です。ところが、法人でその現金を使って不動産を購入すると、相続税評価の計算に「路線価」を使うことになります。
路線価は一般的に時価の70〜80%程度に設定されています。つまり、10億円の現金で不動産を買うだけで、評価額は7〜8億円に下がる計算になります。同じ財産を持っていても、現金として持つか不動産として持つかで、評価額に2〜3億円の差が生まれるわけです。
これが第一の圧縮ポイントです。
手法②:賃貸物件化でさらに評価を積み増し圧縮
購入した不動産を第三者に賃貸すると、評価額はさらに下がります。相続税法上、他人に貸している不動産は「貸家評価」として建物の評価が約30%減額されます。さらに土地も「貸家建付地」として評価が圧縮される仕組みになっています。
路線価による圧縮(第一段階)に加え、賃貸物件化による圧縮(第二段階)を組み合わせると、自社株評価の引き下げ効果は大きく広がります。この2手法の相乗効果で、5億円規模の節税が実現した事例も実際に出ています。
購入後3年以内は効果なし:この注意点だけは絶対に忘れないでください
ここで、見落としてはいけない「落とし穴」があります。
不動産を購入しても、購入後3年以内は時価評価が適用され、路線価評価の恩恵を受けられません。相続税法の規定により、取得後3年以内の不動産は通常の取引価格(時価)で評価されます。
「相続が近くなってから急いで不動産を買う」という動きは、税務上ほとんど効果がありません。資金の流動性を下げるだけで、節税にならないという最悪のパターンになりかねないのです。
この戦略が活きるのは、後継者への株式移転を考え始めたタイミング、できれば移転の5〜10年前から着手したケースです。「もう少し先でいいか」という先送りが、結果として数億円単位の機会損失につながります。
「まだ早い」が一番危ない
事業承継の節税対策は、時間軸が命です。不動産を活用するなら3年以上、株式の段階移転を組み合わせるなら5〜10年のスパンで考える必要があります。
まずは自社株の評価額を一度、専門の税理士に試算してもらうことをおすすめします。「うちはまだ早い」と感じている経営者ほど、後になって「なぜもっと早く動かなかったのか」と後悔するケースが多いのが現実です。
現状把握から始めること、そして早めに動くこと。それが、次世代に会社を「丸ごと」渡すための第一歩になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。