先日、都内で賃貸マンションを3棟所有している製造業の社長から、こんな相談を受けました。「子どもに不動産を渡したいんですが、相続よりも生前贈与の方が得ですよね?」

感覚としては正しいんです。ただ、2024年から2026年にかけての税制改正で、不動産節税の「常識」がじわじわと変わっています。以前と同じ感覚でいると、思わぬ落とし穴にはまる可能性もある。

今回は、社長が今すぐ確認すべき3つの変化をお伝えします。

「3年前まで」が「7年前まで」に——相続加算期間の延長

まず知っておきたいのが、相続加算期間の延長です。

亡くなる前の一定期間にした贈与は、税務上「相続財産に戻す」扱いになる制度があります。以前はこの期間が「3年」でした。亡くなる3年以内の贈与は、相続税の計算に組み込まれてしまっていたわけです。

それが2024年施行の改正で、7年に延長されています。

「え、倍以上?」と驚く社長も多いです。これは相続税対策として不動産の生前贈与を考えている方には、かなりのインパクトです。

たとえば、親御さんが75歳でアパートの贈与を考えているとします。以前なら72歳から着手すればよかったものが、今は68歳頃から動き始める必要があります。70代に入ってからでは「間に合わない」ケースが出てくるということです。

なお、延長された4年分(3〜7年前の贈与)については、総額100万円までは相続財産への加算が不要という緩和措置もあります。ただし、大型の不動産贈与では焼け石に水となるケースが多いため、やはり早期着手が原則です。

相続時精算課税に「年110万円の非課税枠」が誕生

次に、多くの社長にとって朗報となる改正です。

相続時精算課税制度というのは、生前贈与した財産を最終的に相続税で精算する仕組みです。「結局は相続税がかかるなら意味がないのでは?」と思いがちですが、大きな魅力があります。

贈与時の評価額で相続税を計算するため、値上がりが見込まれる不動産や収益を生む賃貸物件を早めに渡しておけば、将来の相続税を圧縮できるのです。たとえば今の評価額が5,000万円の物件が将来1億円になった場合、贈与時に精算課税を使っておけば5,000万円の評価で課税されます。

そして2024年以降、この制度に年110万円の基礎控除が新設されました。

これが大きい。社長個人が所有するアパートや駐車場などを、毎年110万円分ずつ後継者に非課税で移転できるようになったわけです。

以前の相続時精算課税には年間の非課税枠がなく、全額が最終的に精算対象でした。今は110万円以下の贈与なら、相続時の精算も不要になります。暦年贈与の基礎控除とは別の制度ですが、使い勝手はかなり向上しています。

「まだ使っていない」という社長は、今期の税務相談の議題に入れておくことをおすすめします。

不動産管理会社の賃上げで、法人税を直接削れる

3つ目は法人を使った節税策です。

不動産管理会社を持っている社長、あるいはこれから作ろうとしている社長に特に関係します。

中小企業の賃上げ促進税制が強化されており、賃金を増やすと増加額の一定割合を法人税から直接控除(税額控除)できます。要件を満たせば最大45%の控除率になるケースもあります。

税額控除というのは、税率を下げるのではなく、確定した税金そのものから差し引くものです。節税効果が非常に大きい仕組みです。

たとえば管理会社の従業員への賃上げで100万円の人件費増加があったとします。最大で45万円が法人税から直接差し引かれます。これを複数年続けると、累積効果はかなりのものになります。

不動産管理会社は人件費が軽くなりがちな業種ですが、あえて賃上げを実施することで、法人税の圧縮と従業員の定着という両方の効果が得られます。

ただし、賃上げ税制には継続して賃金を増やすという条件があります。一時的に増やして翌年に戻すような操作は認められません。長期的な給与水準の引き上げとセットで検討してください。

3つを組み合わせると、節税効果は数倍になる

今回紹介した3点、相続加算期間の延長を踏まえた早期贈与の実行、相続時精算課税の110万円控除の活用、不動産管理会社を使った賃上げ税額控除。これらは単独でも効果がありますが、組み合わせることで不動産にまつわる税負担を大きく圧縮できます。

特に、所有不動産を後継者に移していく計画がある社長は、相続加算期間の延長と精算課税の非課税枠を組み合わせた「段階的移転プラン」を今すぐ設計すべきです。早く動くほど選択肢が広がります。

ひとつ注意点があるとすれば、制度をフル活用することが常に最適解とは限らないということです。個人の財産状況、経営状況、後継者の有無によって、最適な選択肢は変わります。

まだ不動産節税の見直しをしていない社長は、今期の決算前に一度、顧問税理士と話し合うことをおすすめします。変わってしまったルールの下で旧来の対策を続けていると、気づかないうちに損をしていることもあります。「知らなかった」では取り戻せない税の話です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。