先日、知人の税理士からこんな話を聞きました。神奈川でITサービスを営む松田社長(仮名)が、顧問税理士に電話を入れたそうです。「毎年やっていた不動産の手法、今年も同じでいいですよね?」。返ってきた答えは、想定外のものでした。
「松田さん、その方法はもう使えません」
松田社長は毎年、法人名義でタワーマンションを取得し、相続税の評価額と市場価格の差を利用した節税スキームを活用していました。ところが2024年の評価通達改正により、その前提が根本から変わってしまったのです。
タワマン節税はなぜ「詰んだ」のか
タワーマンションの相続税評価は、これまで路線価方式と固定資産税評価額をベースに計算されてきました。高層階ほど市場価格が高くても、相続税評価額は低いまま——この「評価乖離」を利用したのがいわゆるタワマン節税です。
たとえば市場価格5億円のタワマンが、相続税評価では1.5億円にしかならない。この差額3.5億円分が圧縮されてきたわけです。ところが2024年1月以降、マンションの相続税評価に新しい計算式が導入されました。市場価格との乖離が大きい物件ほど、評価額が引き上げられる仕組みです。
かつて「3分の1以下」に圧縮できていたメリットが、大幅に縮小しています。
2026年現在「封じられた」手法3つ
改正の影響を受けた手法は、大きく3つに整理できます。
① タワマン節税(高層マンションの評価乖離の活用)
前述の通り、評価通達改正で乖離幅が大幅に縮小されました。完全に使えなくなったわけではありませんが、かつての破壊力はもうありません。特に高層階・駅近・築浅の物件は、評価額が市場価格の6割超になるよう是正されるケースも出ています。
② 相続直前の不動産取得による評価圧縮
「亡くなる直前に借入で不動産を購入し、債務控除で相続財産を圧縮する」という手法も、税務調査で否認される事例が相次いでいます。2022年の最高裁判決以来、「租税回避目的が明らか」と認定されると時価評価に引き直される判例が固まっており、実態のない節税目的の購入は高リスクです。
③ 節税名目の法人不動産購入の乱用
法人名義で不動産を取得し、減価償却や経費計上で法人税を圧縮する手法自体はまだ有効ですが、「節税のためだけに実態のない不動産を買う」スキームには税務調査のメスが入りやすくなっています。事業との関連性が薄いケースは特に要注意です。
それでも「まだ残る」手法はある
厳しい話が続きましたが、適切に使える節税手法が完全に消えたわけではありません。
耐用年数切れの中古物件による減価償却は、引き続き有効な手法です。木造であれば法定耐用年数22年を超えた築古物件は、4年間で全額を償却できます。取得年度に大きな損金を作れるため、高所得年度の税負担を軽減する効果があります。ただし売却時に課税が発生する「繰延効果」である点は必ず頭に入れておいてください。
不動産管理法人方式も使い勝手は健在です。個人が保有する賃貸不動産を法人が管理し、管理料を法人側の収入として計上する仕組みです。オーナー個人の不動産所得を法人に分散することで、累進課税の影響を和らげられます。
小規模宅地等の特例は、要件を満たせば相続税評価額を最大80%減額できる強力な制度です。特定居住用宅地なら330㎡まで、特定事業用宅地なら400㎡まで適用可能ですが、要件が細かく申告ミスが多い分野でもあるため、専門家との連携が不可欠です。
「使えた手法」が消えたとき、どう動くか
不動産節税の世界は、2024年を境に大きく変わりました。「去年と同じやり方でいい」という前提が崩れています。
特に注意が必要なのは、過去に実施した節税スキームが現在も有効かどうかの確認です。評価通達改正は新規取得だけでなく、既存物件の相続評価にも影響します。「まだ大丈夫だろう」と放置しているうちに、税務調査のリスクが積み上がっていくケースを、私は何度も見てきました。
2026年の税制環境は「守りながら攻める」設計が求められています。まず顧問税理士と一度、保有不動産の棚卸しをしてみてください。既存スキームの見直しを先にやって、それから残る手法の活用を考える——この順番で動くのが、今の正解だと思います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。