先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「決算書を見た税理士に『このままだと相続税が3億超えます』と言われたんですが、何か手はありますか?」

会社の業績は好調。利益剰余金もしっかり積み上がっている。でも、それがそのまま相続税のリスクになっている——こういう構造に気づいていない社長が、実はとても多いんです。

現金10億円は、税務上も10億円のまま

非上場株式の相続税評価は、多くの会社で「純資産価額方式」が使われます。これは、会社の財産を時価で洗い直して負債を引いた額が、そのまま株式の評価になる仕組みです。

問題は現金や預金です。会社に10億円の現金があれば、それは評価上も10億円として計上されます。圧縮の余地がまったくない。業績が良くて現金が潤沢な会社ほど、この罠にはまりやすい構造になっています。

逆に言えば、この「評価の歪み」を逆手に取る方法があります。それが法人での不動産購入です。

不動産に変えると、なぜ評価が下がるのか

法人が不動産を取得すると、評価の計算がガラッと変わります。

土地は「路線価」で評価されます。路線価は時価のおよそ80%程度。建物は「固定資産税評価額」が基準になり、時価の50〜70%程度まで落ちます。

つまり、10億円の現金を使って10億円の不動産を購入すると、評価額はざっくり5〜8億円程度に下がる。純資産が2〜5億円圧縮されるわけです。現金を動かすだけで、帳簿上の評価がここまで変わる——このメカニズムを知っているか知らないかで、事業承継のコストは大きく変わってきます。

2027年末が期限の「特例」と組み合わせると最強になる

さらに見逃せないのが、事業承継税制の特例措置です。

この特例を活用すると、後継者が取得した自社株について相続税・贈与税の納税が猶予され、要件を満たせば実質的に免除されます。ただし、特例を利用するための「特例承継計画」の提出期限は2026年3月末。そして贈与・相続の実行期限は2027年12月末と決まっています。

不動産購入による純資産の圧縮と、この特例措置を組み合わせると、2つの圧縮効果が重なります。どちらか片方でも十分効果はありますが、両方を組み合わせた場合、試算上5億円規模の評価圧縮も現実的な数字になります。

やってはいけない失敗パターン

ただし、不動産を使った節税にはいくつか注意点があります。

まず物件の選び方です。収益性の低い不動産を無理に購入すると、節税効果は出ても会社のキャッシュフローが悪化します。賃料収入が見込めるか、出口戦略はあるか——節税と投資収益の両面から考えることが必要です。

次にタイミング。相続開始前3年以内に取得した不動産については、評価の特例が使えないケースがあります。「亡くなってから慌てて動く」では完全に手遅れです。事業承継は、元気なうちに仕込む対策です。

そして後継者の特定。特例承継計画は都道府県の認定支援機関を通じた申請が必要で、誰に承継するかを明示しなければなりません。「いずれ子どもに……」という状態では、手続きが進みません。

今すぐ確認してほしい1つのこと

2027年末まで、実質的に残り1年半を切っています。不動産取得から承継計画の申請、実行までの期間を考えると、決して余裕のあるスケジュールではありません。

まず手元の決算書を開いて、純資産の内訳を確認してください。現金・預金の比率が高く、利益剰余金が積み上がっているなら、評価圧縮の余地が大きい会社です。

税理士に「純資産価額で今の相続税を試算してほしい」と頼んでみてください。それだけで、自社の相続税リスクが数字で見えてきます。まだ事業承継を「先の話」と思っているなら、今期中に一度だけ試算することを強くおすすめします。動き始めるのが早ければ早いほど、選択肢が広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。