先日、不動産を多く持つ製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「工場の土地は会社に貸してるんですが、相続のときってどうなるんですかね。路線価で1億くらいあって、正直かなり心配で」
この一言がきっかけで、「特定同族会社事業用宅地等の特例」という話になったのですが、社長の顔色がみるみる変わっていきました。「え、それって使えるんですか?」と。
会社に貸している土地は「別ルール」で評価される
多くの社長は知らないのですが、自分の会社に土地を貸している場合、相続税法上の評価には特別なルールが適用されることがあります。それが「特定同族会社事業用宅地等の特例」です。
ひと言でいうと、400㎡まで、相続税評価額が80%圧縮されるという制度です。
「圧縮される」というのが重要で、ゼロになるわけではありません。でも、1億円の土地が2,000万円として評価されるというのは、相続税の計算においてまったく別次元の話になります。
数字で見るとその威力がわかる
具体的に計算してみましょう。
路線価1億円の土地を、社長が自分の会社に貸しているとします。この特例を使うと、相続税評価額は80%引きの2,000万円になります。
ここに基礎控除を組み合わせます。基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数」です。法定相続人が2人なら、3,000万円 + 1,200万円 = 4,200万円。
評価額2,000万円は基礎控除4,200万円を下回りますから、この土地に対する相続税はゼロになります。特例なしなら1億円に対して相続税が課されていたところ、です。
この差は、社長が思っている以上に大きい。「対策しなければよかった」と言う方は、まずいません。
適用できる条件は大きく3つ
ただし、誰でも無条件に使えるわけではありません。この特例には明確な要件があります。
1. 法人が「賃貸業以外の事業」を営んでいること
会社の主な事業が、土地や建物の賃貸そのものであってはいけません。製造業・サービス業・小売業など、実態のある事業を行っている法人が対象です。「土地を貸すために会社を作った」というスキームは認められません。
2. 社長(土地の相続人)が、その法人の役員であること
土地を相続する方が、貸付先の法人の役員(取締役等)である必要があります。関係のない第三者への貸付とは、扱いが異なります。
3. 相続後、申告期限まで土地を売らないこと
相続税の申告期限は、相続開始から10ヶ月以内です。この期間中に土地を売却してしまうと、特例の適用が取り消されます。「特例を使って評価を下げた後、すぐ売る」という動きは認められていません。
「うちには関係ない」と思っている社長こそ要確認
この特例を聞いたとき、「でもうちの会社、正式な賃貸借契約書なんてないんですよ」とおっしゃる社長がときどきいます。
それ、実はかなり危険な状態です。
口約束や「なんとなく使わせている」状態では、特例の適用が難しくなるだけでなく、「使用貸借(タダで貸している)」とみなされ、評価が逆に上がるケースすらあります。
土地を会社に貸しているなら、今すぐ賃貸借契約書を整備して、適正な賃料を設定しておくことが第一歩です。これだけで、将来の選択肢がまったく違ってきます。
今期中に一度、棚卸しをしておく
相続税の対策は、「相続が起きてから考える」では手遅れになることがほとんどです。特に、この特例のような「使える状態を作っておく」ためのルールは、何年も前から準備が必要なものが多い。
自社に土地を貸している社長は、一度、現在の貸付条件・契約書の有無・会社の事業内容が要件を満たすかどうかを棚卸ししてみてください。それだけで、数百万から数千万円単位の相続税が変わる可能性があります。
手元のメモでいいので、「どの土地を・誰に・どんな条件で貸しているか」をリストアップするところから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。