先日、資産30億円超を保有する製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「不動産は個人で持ち続けるべきか、法人に移すべきか。息子への承継を考えると、どちらが有利なんでしょう?」
この質問、実はものすごく重要です。同じ30億円の不動産でも、個人で持つか法人で持つかによって、事業承継時の評価額が10億円以上変わることがあるからです。
法人株式の評価に潜む「控除の仕組み」
相続税や贈与税の計算において、法人の株式は「純資産価額方式」という方法で評価されます。
簡単に言うと、会社が持っているすべての資産を時価評価して、負債を差し引いた純資産が株式の評価額になる、というものです。
ここに大きなポイントが隠れています。法人が不動産を持っていて、その不動産に含み益がある場合、その含み益に対して法人税相当額(37%)を控除できるのです。含み益が10億円あれば、3.7億円分を差し引いた金額で評価されます。個人所有ではこの控除はありません。
路線価と固定資産税評価額の「ダブル圧縮」
さらに効果的なのが、不動産そのものの評価方法です。
法人が保有する不動産を株価計算に組み込む際、土地は路線価(公示地価の約80%水準)、建物は固定資産税評価額で評価します。どちらも時価より大幅に低い数字です。
時価30億円の不動産でも、路線価ベースでは20〜24億円程度になることが多い。建物の固定資産税評価額も、建築コストの6〜7割程度になります。
この「評価額による引き下げ」と「含み益の法人税相当額控除」が組み合わさると、評価額が時価の60〜70%にまで圧縮されることも珍しくありません。30億円の物件であれば、評価額が18〜20億円台になる。その差が丸ごと相続税の課税ベース削減につながるわけです。
10億円の差が生む節税インパクト
仮に、時価と評価額の差が10億円あったとしましょう。
相続税の最高税率は55%ですから、課税ベースが10億円下がれば、理論上は最大5.5億円の相続税が軽減される計算になります。実際には累進構造や他の財産との兼ね合いもあるため単純計算はできませんが、億単位の節税効果が生まれる可能性があるという点は間違いありません。
不動産の持ち方ひとつで、これだけの差が出る。だからこそ、事業承継を考え始めたら早めに動くことが大切なのです。
見落としがちな2つの落とし穴
ここからは、重要な注意点をお伝えします。
落とし穴①:3年以内の取得は時価評価になる
相続開始前3年以内に法人が取得した不動産は、路線価ではなく時価で評価されます。「相続が近づいてから急いで法人に不動産を入れる」という対策は、この規定によりほぼ効果がなくなります。
評価圧縮の恩恵を受けるためには、3年以上前から法人での保有を始めておく必要があります。「そろそろ考えようかな」と思ったときが、もう動き出すタイミングです。
落とし穴②:区分マンションの圧縮効果は縮小している
2024年1月から、区分マンションの相続税評価に関する通達が改正されました。改正以前は、タワーマンションなどで時価の20〜30%程度まで評価を圧縮できるケースもあり、「タワマン節税」として広く知られていました。
改正後は、評価額と時価の乖離が一定水準を超える場合に是正が行われるようになったため、以前ほどの圧縮効果は期待できなくなっています。区分マンションを活用した相続税対策を検討している方は、現行の通達に基づいた試算を必ず確認してください。
「まだ早い」が一番危ない
法人不動産による評価圧縮は、きちんと設計すれば非常に強力な事業承継対策になります。ただし、「急いで不動産を買えばいい」というものではありません。3年という時間的なリードタイムが必要ですし、どの不動産をどのような法人スキームで保有するかによって効果は大きく変わります。
まだ法人での不動産保有を検討していないなら、承継の話が具体化する3〜5年前には動き出すことをおすすめします。「まだ早い」と思っているうちに、あっという間に3年は過ぎていきます。
担当の税理士と一度、「法人で保有している(または移す予定の)不動産が株価に与える影響」を試算してみてください。数字を目の前にすると、対策の優先度がぐっとリアルになるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。