先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。

「税理士に試算してもらったら、相続税が2億8千万円と言われた。息子に会社を渡せるか、正直不安で眠れない」

年商5億円、従業員30名を30年かけて育ててきた会社です。その成功の証がそのまま相続税の重さになってしまう——これが多くの中小企業オーナーが直面する現実です。

でもこの社長、最終的に相続税の負担を約5割削減することができました。使ったのは、3つの制度を組み合わせた「三重節税設計」です。

なぜ優良企業ほど相続税が重くなるのか

中小企業のオーナーが亡くなったとき、相続財産の大半を占めるのが「自社株」です。会社が積み上げてきた利益や内部留保が株価に反映されるため、事業が順調であればあるほど、株式の評価額が膨らんでいきます。

さらに土地や建物も所有していれば、その評価額も上乗せされます。30年間頑張って会社を大きくしてきたのに、その成功が息子への「重荷」になってしまう。こんな理不尽な話はないと思うのですが、税法はそういう仕組みになっています。

だからこそ、「設計」が必要なのです。

三重節税設計の中身

提案されたのは、次の3つを組み合わせる方法でした。

① 事業承継税制の特例措置

後継者が非上場株式を相続・贈与で取得した際、一定の要件を満たせば相続税・贈与税の納税が猶予される制度です。要件を満たした状態で経営を5年以上続けると、猶予が免除に転じます。

「猶予」であって「即免除」ではない点には注意が必要ですが、自社株にかかる税負担の大部分を将来に繰り延べられる効果は絶大です。ただし、この特例措置は2027年3月末までに計画申請が必要です。まだ動いていない方は、今すぐ確認してください。

② 法人で収益不動産を保有する

会社が賃貸不動産を購入・保有すると、株式の評価額を引き下げる効果があります。純資産価額方式で計算される株価は、保有資産の帳簿価額を反映するため、時価より評価が低くなりやすい不動産を法人が持つことで評価圧縮につながります。

個人で不動産を持つより法人保有のほうが相続税対策として有効なケースが多く、この社長のケースでも株式評価の圧縮に大きく貢献しました。

③ 小規模宅地等の特例

事業や居住に使っている土地は、要件を満たせば評価額を最大80%減額できる制度です。事業用地なら330㎡まで80%減、貸付事業用地なら200㎡まで50%減が適用されます。

他の節税策と併用できるのが強みで、三重設計の中で最もわかりやすいインパクトをもたらす仕組みです。

3つを組み合わせると何が起きるのか

①〜③を組み合わせた試算の結果、この社長の相続財産評価額は2億8千万円から約1億4千万円まで圧縮されました。相続税の負担は約5割削減という結果です。

数字だけ見ると「そんなにうまくいくの?」と思われるかもしれません。ただ、これは3つの制度が相乗効果を生むからこそ実現する数字です。1つだけ使っても、ここまでの効果は出ません。

やってはいけない落とし穴

三重設計には、注意点もあります。

事業承継税制は「猶予」の条件が細かく、後継者が一定期間内に要件を外れると、猶予された税額に利子税がついて一括請求される場合があります。制度を使ったら終わり、ではなく継続的な管理が必要です。

法人での不動産保有は、節税効果だけを見て収益性の低い物件を購入してしまうケースが散見されます。節税は副次的な効果として、まず収益物件として成立するかどうかで判断しましょう。

小規模宅地の特例は、同居要件や申告書への添付書類など、適用条件が細かく定められています。要件を一つ見落とすだけで特例が丸ごと使えなくなることもあるため、専門家のチェックは必須です。

「まず試算」が最初の一歩

相続税対策は、制度を使うより先に「現状の相続税額を知ること」から始まります。「うちはまだ大丈夫」と思っている社長ほど、実際に試算してみると想定外の数字が出ることが多いのが現実です。

事業承継税制の特例申請期限が2027年3月末と迫っている今、少なくとも一度、専門家に現状を確認してもらうことをおすすめします。承継のタイミングは選べませんが、準備を始めるかどうかは今日から決められます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。