先日、愛知県で製造業を30年以上経営してきた65歳の社長から、こんな話を聞かせていただきました。

「顧問税理士から『今すぐ動かないと、数億円が税金で消えます』と言われて、初めて事態の深刻さに気づいた」と。

会社には長年の蓄積で、現預金や有価証券が3億円以上ありました。後継者への承継を考えていましたが、そのまま渡せば相続税が重くのしかかる。でも、ある税理士のアドバイスで、その3億円の「性質」を変えることに成功したそうです。

現金3億円のままでは、相続税の的になる

法人の内部留保が積み上がると、自社株の評価額が上がります。会社の純資産が高くなるほど株価が上がり、社長が亡くなったとき、後継者が株を相続する際に多額の相続税が課される——という構図です。

現金は「1円=1円」で評価されます。当たり前に聞こえますが、これが問題です。

不動産に組み換えると、評価の計算式が変わります。土地は路線価(時価の7〜8割程度)、建物は固定資産税評価額(時価の5〜6割程度)で評価される。さらに賃貸に出すと貸家建付地・貸家評価として、そこからさらに割り引かれます。

3億円の現金を適切な賃貸不動産に組み換えると、相続税評価額が1億円台まで圧縮されることも珍しくない。これが不動産を使った相続税対策の根幹にある考え方です。

社長が実践した3つの手順

この社長が実際に動いたことを整理すると、3つのステップになります。

ステップ1:法人名義で賃貸不動産を取得する

個人ではなく法人名義で購入するのがポイントです。法人が保有する賃貸不動産も、株価計算(純資産価額方式)では不動産評価額で算定されます。現金3億円が路線価ベースの評価に切り替わることで、自社株評価の圧縮につながります。

ステップ2:家賃収入を役員退職金の原資として積み上げる

賃貸不動産から毎年入ってくる家賃収入を、将来の役員退職金として計画的に積み上げます。役員退職金は税務上、適正額であれば損金算入できる。社長が退職するタイミングで支給することで法人税の節税にもなり、さらに手元に残った退職金は退職所得として分離課税——給与より大幅に有利な税率で受け取れます。

ステップ3:承継5年前から不動産を計画的に組み換え、法人税も圧縮する

時価が下がった物件を売却して含み損を確定させ、その売却損を法人の他の利益と通算する。これにより法人税の負担も同時に軽減できます。

重要なのは「計画的に」という点で、この社長が承継の5年前から動き始めたことが功を奏しました。承継直前の駆け込み対策は税務調査でも目をつけられやすい。時間をかけてじっくり組み換えてきたという事実が、正当性の裏付けになります。

注意しておきたい「逆効果」のケース

ここまで聞くと「すぐにでも不動産を買おう」と思うかもしれません。でも、物件選びを誤ると逆効果になることがあります。

空室率が高い物件を買ってしまうと、賃料収入が入らず固定費だけがかさんで、会社の財務を圧迫します。また、都市部の一等地は時価と路線価の差が小さく、評価圧縮効果が薄れることも。さらに、タワーマンションの節税スキームは2024年以降に評価方法が見直され、過去のような大幅な圧縮は難しくなっています。

不動産選定には、エリア・築年数・賃貸需要・キャッシュフロー——税務以外の観点も含めた総合的な判断が欠かせません。

「早めに動く」ことが最大の節税策

事業承継の節税対策は、時間が何よりの武器です。

承継直前になって慌てると、選択肢が一気に狭まります。金融機関との交渉、物件調査、賃貸管理体制の整備——これらには最低でも1〜2年かかります。5年前、できれば10年前から逆算して設計することで、今回ご紹介したような段階的な手順が初めて実現できます。

「まだ承継は先の話」と思っているオーナー社長ほど、今すぐ不動産と事業承継に強い税理士に相談してみてください。手元の現金が「相続税の的」になっているかどうか、現状を把握することが最初の一歩です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。