先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。
「息子に会社を渡す準備を始めたんだけど、税理士に試算してもらったら相続税が思った以上にかかると言われて…。何か手を打てることはありますか?」
年商は7億円ほど、自社ビルや工場の土地も持っている、ごく普通の中小企業のオーナー社長です。ところが詳しく話を聞いてみると、不動産に関する節税策をほとんど手つかずのまま放置していることが判明しました。
事業承継の場面で見落とされがちなのが、「不動産をどう扱うか」という視点です。この3つのポイントを押さえているかどうかで、相続税の金額が数千万円単位で変わってくることがあります。
不動産の評価額は「時価」より低い
まず知っておいてほしいのが、相続税における不動産の評価の仕組みです。
相続税の計算で使われる不動産の評価額は、実際の市場価格(時価)と一致していません。土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」という基準で計算されるため、実際には時価の70〜80%程度に評価されるケースが多いのです。
つまり、時価2億円の土地と建物を持っていても、相続税の計算上は1億4000万〜1億6000万円として扱われる可能性があるということです。現金で2億円持っているより、不動産で持っているほうが評価額が下がる——この仕組みを知っているだけでも、資産の持ち方の戦略は大きく変わります。
「小規模宅地等の特例」は強力な武器
さらに強力なのが、「小規模宅地等の特例」です。
事業で使っている土地については、一定の要件を満たすと相続税の評価額を最大80%減額できます。たとえば評価額1億円の事業用地なら、特例を使うことで2000万円として計算できる可能性があるということです。8000万円分が、文字通りゼロに近い状態になるわけです。
ただし、この特例には細かい適用要件があります。誰が土地を相続するか、その後も事業を継続するかどうか、申告期限までの状況など、条件を満たさないと特例が使えなくなるケースもあります。事業承継の計画を立てるときに、この特例を前提としたスキームをあらかじめ設計しておくことが重要です。
法人で不動産を持つと株式評価が下がる
3つ目は、少し視点を変えた話になります。
個人で不動産を持つのではなく、会社(法人)で不動産を保有するという方法があります。法人が土地や建物を持つと、その分が会社の資産として算入されます。一見すると「会社の価値が上がって相続税も増えるのでは?」と思われるかもしれませんが、実はそうとも限りません。
法人が不動産を保有すると、その評価は時価ではなく帳簿価額や路線価ベースで計算されるため、株式の相続税評価額を大きく引き下げる効果があるケースがあります。特に、資産管理会社や不動産保有を目的とした法人スキームは、富裕層の相続対策として広く活用されています。
もちろん、法人化のコストや税務リスクもセットで検討する必要はありますが、うまく設計できれば非常に有効な手段です。
3つを組み合わせると効果は大きい
①不動産評価の圧縮(時価の70〜80%評価)、②小規模宅地等の特例(最大80%減額)、③法人保有による株式評価の引き下げ——この3つを組み合わせて使うと、ケースによっては相続税を2000万〜3000万円規模で圧縮できることもあります。
冒頭の社長の場合も、不動産の保有形態を見直し、事業承継のスキームに小規模宅地特例を組み込むことで、大幅に相続税の負担を減らせる可能性が見えてきました。
大切なのは「準備のタイミング」です。
相続税の節税策の多くは、相続が発生してからでは手遅れになるものがほとんどです。事業承継を視野に入れているなら、少なくとも3〜5年前から動き出すことをおすすめします。特に法人スキームの活用や不動産の組み替えは、時間がかかる施策です。「そろそろ後継者に渡すことを考えている」と思い始めたタイミングが、行動を起こす最適な時期です。
今すぐ事業承継が必要なわけではないとしても、不動産の持ち方だけでも一度税理士に見てもらうことをおすすめします。意外と見落としているポイントが見つかることも多いですよ。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。