先日、資産がちょうど1億円に達したという製造業の社長から、こんな相談を受けました。「税理士から相続対策を急いだほうがいいと言われたんですが、何から手をつければいいのかさっぱりわからなくて」と。
聞いてみると、ご本人も奥様も、相続税がいくらかかるのかまったく把握していない状態でした。「1億円あるからなんとかなるだろう」という感覚で、対策ゼロのまま来てしまっていたんです。
1億円に相続税がかかると、どうなるか
まず現実の数字を見てみましょう。相続税の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」です。お子さんが2人なら控除は4,200万円。1億円の資産なら、5,800万円に相続税がかかる計算になります。
課税対象の5,800万円には40〜50%の税率が適用される部分も含まれます。何も手を打たなければ、資産の3割以上が税金として消える可能性があるわけです。「1億円あれば安心」と思っていた社長が、試算を見て青ざめるのも無理はありません。
1段階目:法人で不動産を持つと評価が下がる
ここで「法人×不動産」という組み合わせが登場します。
個人で1億円の不動産を持っていると、相続税の評価もほぼ時価に近い金額になります。ところが法人名義にすると、評価の計算方法が変わります。土地は路線価、つまり公示地価の約80%で評価されます。建物は固定資産税評価額、再建築費用の50〜70%程度です。
時価1億円の不動産でも、相続税評価額は6,000〜7,000万円台になるケースが多い。これが1段階目の圧縮です。
2段階目:賃貸に出すと、さらに評価が下がる
法人が取得した不動産を賃貸物件として運用すると、「貸家建付地」として追加の評価減が適用されます。更地や自宅のままにしておくより、賃貸に出している状態のほうが評価額はさらに低くなる仕組みです。
1段階目の路線価評価に加えて、この賃貸化による減額が重なることで、評価圧縮の効果がより大きくなります。
3段階目:法人株式の評価に「37%控除」が乗る
3つ目が、多くの方が見落としているポイントです。
法人が不動産を保有している場合、その法人の株式評価に影響が出ます。純資産価額方式で評価するとき、「法人税額等に相当する金額」として37%が控除される仕組みがあるのです。
「不動産評価の圧縮」「賃貸化による追加の評価減」「株式評価での37%控除」という3つが積み重なることで、節税効果が大きく膨らむ構造になっています。この3段階を組み合わせるのが、1億円規模の資産を持つ方が取り組む相続対策の王道パターンです。
役員報酬で利益をさらに分散する
法人に資産を移したら、次は役員報酬の設計です。法人の利益が大きいと、その分だけ法人税がかかります。社長や配偶者・お子さんへの役員報酬を適切に設定することで、法人の課税所得を圧縮できます。
個人に分散された報酬は、それぞれの所得税で計算されるため、全体の税負担が下がりやすくなります。不動産活用と役員報酬の設計を組み合わせることで、法人税・相続税の両面から対策できるのが大きなメリットです。
「評価が下がる」と「税が減る」は別の話
ここで大切な注意点があります。
評価額が圧縮されることと、実際に払う税金が減ることは、必ずしも同じではありません。物件の種類・立地・ローンの有無・家族構成・適用される税率によって、効果は大きく変わります。「法人化すれば節税できる」という話を聞いて飛びついたものの、手間やコストが見合わなかった、というケースも実際にあります。
3段階の仕組みを理解した上で、自分のケースにどう当てはまるかを専門家と試算することが欠かせません。
まず「現状のまま相続が起きたらいくらか」を試算する
資産が1億円前後になってきた社長がまずやるべきことは一つです。「今すぐ相続が発生したらどうなるか」を数字で確認することです。法人化や不動産活用の是非は、その試算の後に判断すれば十分です。
「まだ若いから」と後回しにしていると、気づいたときには対策の選択肢が狭まっていることもあります。早めに動くほど、使える手段は多いものです。一度、相続税の試算を税理士に依頼することから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。