先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「アパートの家賃収入が年間500万円を超えてきたんですが、このまま個人名義で持ち続けていいですか?」

建設業を営む傍ら、郊外に3棟のアパートを所有しているオーナー社長です。事業は順調、不動産も少しずつ安定してきた。一見すると理想的なポートフォリオに見えます。でも、税務の観点から見ると、この局面は「次のステップを考える分岐点」でもあります。

個人で持ち続けると、税率がじわじわ食いにくる

不動産収入を個人で受け取ると、事業収入や役員報酬と合算して課税されます。これが見落とされがちな落とし穴です。

たとえば、会社から役員報酬を年1,000万円受け取っている社長が、不動産収入500万円を上乗せすると、合計所得は1,500万円に。この水準になると所得税の税率は33〜40%に達し、住民税10%を加えた実質的な税率は43〜50%近くになることも珍しくありません。

つまり、500万円の家賃収入を稼いでも、手元に残るのは250万円前後というケースが十分あり得るのです。額面だけ見ると「不動産収入があってよかった」と思えても、税引後に目を向けると話は変わります。

法人で受け取ると、同じ金額でも手残りが変わる

一方、不動産管理法人や自社を活用して法人で家賃を受け取る設計にすると、課税の仕組みが変わります。

中小法人の法人税実効税率は、課税所得800万円以下なら約23%前後。個人の実効税率が43〜50%だとすると、20ポイント以上の差が生まれることになります。

500万円の収入を前提に試算すると、個人課税では税負担が220〜250万円近くになることがある一方、法人では115万円前後に抑えられるケースも。差額は100万円を超えることも珍しくありません。これが「年500万円を目安に法人化を検討すべき」と言われる背景です。

ただし、法人化にはコストも伴う

「じゃあすぐ法人を作ればいい」かというと、そう単純でもありません。

法人設立には、登記費用や司法書士報酬として25〜30万円前後の初期コストがかかります。設立後も、法人住民税の均等割(最低でも年7万円)や税理士顧問料、決算申告費用が毎年発生します。

さらに、現在個人名義で持っている不動産を法人へ移す場合には、不動産取得税や移転登記費用が別途かかるケースも。この「切り替えコスト」が意外と重く、試算せずに動いて後悔するケースも存在します。ですから「500万円を超えたら即法人化」ではなく、「500万円を超えたら試算してみる段階に入った」という理解が正確です。

比較すべきは「今の税負担」と「法人化後の総コスト」

法人化の是非を判断するには、いくつかの要素を並べて比べる必要があります。現状の個人での手取り額と実効税率、法人化した場合の法人税負担と年間維持コスト(顧問料・均等割など)、不動産を移転する場合の一時コスト、そして将来的な物件売却や相続との兼ね合いです。

これらの数字が揃って初めて「自分の場合は得か損か」がわかります。感覚で判断するより、税理士に依頼して具体的なシミュレーションを出してもらうのが一番の近道です。

「知らなかった」では取り返せない税金がある

不動産収入の課税に無頓着でいると、5年・10年単位で損する金額はかなりの規模になります。年100万円の差が10年続けば1,000万円。それが設備投資や資産形成に回るか、税金に消えるかでは、長い目で見ると大きな差です。

「まだ500万円に届いていない」という方も、今後の見通しや物件追加の計画があるなら、早めに税理士に相談しておくのが得策です。法人の器を先に作っておくという選択肢もあります。

まだ「なんとなく個人名義で持っている」なら、今期の決算前に一度、法人化の試算を依頼してみてください。数字を見るだけで、次の一手が明確になるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。