先月、年商3億円の建設業の社長から、こんな電話がありました。「法人を作ったはいいけど、思っていた以上にお金が出ていく。個人事業のままのほうがよかったかも……」。

法人化は節税の切り札として広く知られています。ただ、正直に言います。準備なしに動くと、メリットよりデメリットのほうが先に来ます。今回は、私が実際に見てきた「法人設立で損をした社長」に共通する、5つの盲点をお伝えします。

設立費用は25万円超、しかも赤字でも毎年コストがかかる

法人を作ること自体にお金がかかります。登記費用、定款認証、司法書士への報酬などを合計すると、最低でも25万円前後。これは多くの方が知っています。

ところが、見落とされがちなのが「均等割」という住民税の固定費です。法人は赤字であっても、毎年最低7万円(東京都の場合)の住民税がかかります。売上ゼロでも、休眠中でも、この7万円は逃げられません。

設立から数年は赤字になることも珍しくありません。そのあいだも毎年7万円がじわじわと出続ける——これを知らずに法人化した社長は少なくないです。

役員報酬を設定したら、社会保険への加入は「義務」になる

個人事業の場合、国民健康保険と国民年金で済みます。ところが法人で役員報酬を受け取ると、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が強制になります。

報酬を月50万円に設定した場合、社会保険料は会社負担分と個人負担分を合わせると年間100万円を超えることもあります。節税効果と相殺してしまうケースもあるので、「報酬をいくら設定するか」の設計が非常に重要です。

法人にすれば自動的に手取りが増える——そんな誤解を持ったまま法人化すると、手元に残るお金が思ったより増えない、という現実に直面します。

役員報酬は「期中変更禁止」が鉄則

役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。簡単に言うと、1年間は同じ金額を毎月払い続けなければならない、というものです。

「今月は利益が出たから報酬を上げよう」「来月は厳しいから少し下げよう」——これが原則できません。変更できるのは、決算後の一定期間内だけです。

これを知らずに途中で報酬を変更してしまうと、変更分が損金として認められなくなります。法人の節税の大きな柱が「役員報酬の損金算入」ですから、ここを外すと税金の計算が大きく狂います。設立前に来期の売上をある程度シミュレーションしたうえで、報酬額を決める必要があります。

不動産を個人から法人に移すと、税金が二重にかかる

「個人で持っている不動産を法人に移せば節税になる」という話を聞いたことがある方も多いと思います。長期的にはそうなるケースもありますが、移転のタイミングで大きなコストが発生します。

不動産取得税と登録免許税です。評価額1億円の不動産を法人に移すと、これらの税金だけで数百万円規模になることがあります。個人→法人への移転は売買や現物出資という形をとることが多く、そのたびに税コストが発生します。

「法人に移したほうが節税になる」という結論は、この移転コストを差し引いたうえで計算しないと意味がありません。不動産を抱えている社長は、特に慎重に試算することをおすすめします。

新設法人は、最初の2〜3年、銀行融資がほぼ通らない

これが最もリアルな落とし穴かもしれません。法人を作った直後は、決算書がありません。金融機関は決算書で返済能力を判断しますから、「実績ゼロ」の新設法人への融資審査は非常に厳しくなります。

個人事業の頃に黒字続きだったとしても、法人化した瞬間にリセットされます。最初の決算が出るまで1年、しっかりとした実績と見なされるまでさらに1〜2年——合計で2〜3年は資金調達が難しい状態が続きます。

「法人のほうが信用が高い」というイメージがありますが、設立直後はむしろ個人事業主よりも融資を受けにくい場合があります。手元資金に余裕がないタイミングでの法人化は、特に注意が必要です。

法人化を「待つ」判断も正解

5つの落とし穴を見てきましたが、もちろん法人化が有効な場面もたくさんあります。年間の利益が一定以上になれば税率差の恩恵が大きくなりますし、経費の幅も広がります。

大切なのは、タイミングと設計です。「儲かってきたから法人にしよう」という勢いで動くのではなく、社会保険料のシミュレーション、役員報酬の設計、不動産の移転コスト、手元資金の状況——これらをしっかり試算してから判断することが欠かせません。

法人化を急ぎすぎて多大な損失を出した社長を、私はこれまで何人も見てきました。まだ検討段階であれば、ぜひ一度、信頼できる税理士に数字を出してもらってください。動いてからでは取り返せないコストが、法人化の世界には確かに存在します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。