先日、不動産を5棟持つオーナー社長からこんな相談を受けました。「節税になると聞いて法人化したのに、思ったより手取りが増えていない気がする」――実はこういった声、決して珍しくないんです。

法人化には確かに節税メリットがあります。ただ、「法人にすれば税金が安くなる」という話だけを聞いて動いてしまうと、想定外のコストに後悔することになります。今日は、不動産の法人化で起きがちな3つの落とし穴をお伝えします。

落とし穴① 移転の瞬間に150万円が消える

個人名義の不動産を法人に移す。一見シンプルに見えるこの手続き、実は高くつきます。

不動産を売買や現物出資で法人に移す場合、不動産取得税と登録免許税がかかります。評価額3,000万円の物件であれば、これだけで合計約150万円前後になることがあります。税率は物件の種類や取得方法によって変わりますが、いずれにせよ「移す瞬間」にまとまった現金が出ていきます。

何年分かの節税メリットが、移転コスト1回で帳消しになる――そういうケースは本当に珍しくありません。物件を移すかどうかは、「どれだけ節税できるか」だけでなく、「移転コストを何年で回収できるか」という視点で考えることが大切です。

落とし穴② 赤字でもコストはかかり続ける

法人を作ったはいいものの、利益が出ない年もある。そんなとき、個人と法人では大きな違いがあります。

法人には、たとえ赤字でも年間7万円程度の均等割(住民税の最低税額)が発生します。都道府県・市区町村合算で最低でもこの金額は避けられません。小規模な物件しかなければ、それだけで赤字になることもあります。

さらに、税理士報酬も変わってきます。個人の確定申告なら年20〜30万円で対応してもらえるケースが多いですが、法人になると決算申告だけで50〜80万円、場合によってはそれ以上。個人の2〜3倍は想定しておいたほうがいいでしょう。

家賃収入が年100〜200万円規模の物件だと、維持コストだけで節税メリットが吹き飛んでしまうことがあります。法人化が向くのは、ある程度の収益が見込める規模感の場合に限られます。

落とし穴③ 融資の壁で物件拡大がストップする

法人化するもう一つの目的が「法人名義で物件を増やしていく」ことだとしたら、ここに大きな落とし穴があります。

設立直後の法人は、銀行から見ると**「実績のない新設法人」**です。個人としての信用――給与収入、既存物件の返済実績など――は、法人の審査ではほぼリセットされます。融資を断られる、もしくは条件が厳しくなる、そういったケースは法人化した直後に急増します。

「法人の方が大きく借りられる」という期待は、少なくとも最初の2〜3年はなかなか実現しません。もし融資を使って規模拡大を考えているなら、法人化のに金融機関との関係を作っておくことが不可欠です。「法人化を検討しているが、どう見ますか?」と事前に相談しておくだけでも、その後の審査の通りやすさが変わってきます。

法人化が「正解」になるのはどんなケース?

落とし穴ばかり挙げましたが、もちろん法人化が有効な場面もあります。

収益が年間500万円以上安定している、役員報酬として家族に所得を分散できる、相続対策として資産の移転を考えている――こういった条件が揃っている場合には、法人化は強力な節税手段になり得ます。

大切なのは、「法人化すべきかどうか」ではなく、「自分の物件規模・収益・将来プランに合っているか」を精査すること。移転コスト・維持コスト・融資への影響を数字で試算してから判断するのが鉄則です。


不動産の法人化は、やり方次第で大きなメリットにもコストの無駄にもなります。まだ検討段階であれば、「移転コスト・維持費・融資計画」の3点をセットで専門家と試算してから動くことをおすすめします。先に数字を出してから動くかどうか決める――それだけで、後悔するリスクはぐっと下がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。