先日、年商3億円ほどの不動産会社を経営されている社長とお話しする機会がありました。「税理士に任せてるから大丈夫」と笑いながらも、役員報酬の額は10年近く変えていないとおっしゃっていました。
そのとき私は思わず聞き返してしまいました。「令和7年分からの基礎控除の引き上げ、もう反映しましたか?」
2026年、役員報酬の「最適ライン」がずれている
多くの中小企業オーナーが見落としているポイントがあります。それが、令和7年分(2025年)から適用された所得税の基礎控除10万円引き上げです。
48万円から58万円へ。わずか10万円の変化に見えますが、これが役員報酬の最適額を見直す重要なシグナルになります。役員報酬の金額は所得税と法人税のバランスで決まるものだからです。この控除額が変われば、当然「最適ライン」も動きます。
所得税と法人税の「板挟み」を理解する
役員報酬を上げると、個人の所得税が増えます。一方、役員報酬は法人の損金(経費)になるので、法人税は減る。逆に報酬を下げると、法人に利益が残って法人税がかかります。
個人の所得税率は5%から最高45%(住民税10%を合わせると55%)。法人税は中小企業の場合、所得800万円以下で約19%、超えると23.2%程度です。この差が節税の余白になります。
基礎控除が58万円に引き上げられたことで、この最適ラインが上方にずれました。見直さないでいると、気づかぬうちに損をしている可能性があります。
不動産を「法人で持つ」との組み合わせが強い
さらに効果が大きくなるのが、不動産を法人で保有しているケースです。
法人が不動産を持つと、建物の減価償却費を毎年経費として計上できます。たとえば1億円の建物(耐用年数20年・定額法)なら、年間500万円の経費が法人側に積み上がります。この減価償却で法人の利益がすでに圧縮されている状態では、役員報酬の設計戦略も変わってきます。
具体的には、社長の報酬を月100万円から月80万円に調整することで、個人の所得税率が33%帯から23%帯に下がり、かつ法人税の増加分も減価償却の恩恵でカバーできる——という構造が生まれることがあります。不動産の有無によって「最適ライン」は大きく変わるのです。
「適切に設計した社長」と「そのままの社長」では年300万の差
実際に試算してみると、役員報酬の設計を見直した社長とそのままの社長では、年間の税負担合計(法人税+所得税+住民税)に200〜300万円の差が出るケースがあります。
10年で2,000〜3,000万円。これは決して大げさな数字ではありません。役員報酬は毎月払い続けるもので、一度決めると事業年度内は原則変更できない(定期同額給与のルール)ため、年度当初の設計が非常に重要です。
「去年と同じでいい」は危険なサイン
特に注意が必要なのは、「昨年と同じ額で」と毎年何となく継続しているケースです。
事業規模が変わった、不動産を取得した、配偶者役員の報酬を変えた——こうした変化があったときは、役員報酬の見直しを検討するタイミングです。さらに今年は、税制改正という外部要因まで加わっています。
最適額は一律ではなく、法人の利益規模・個人の他の所得・社会保険料の負担感・減価償却の状況など、様々な要素で変わります。今の役員報酬を決めた根拠があいまいなら、今期中に税理士へシミュレーションを依頼してみてください。たった1度の見直しで、毎年数百万円の差がつくことがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。