先日、年商3億円の建設業の社長から、こんな話を聞きました。

「役員報酬は会社が軌道に乗ったときに設定したまま、7年間一度も変えていないんですよね。税理士にも特に何も言われないし、これでいいのかなと思っていて」

試算してみると、最適な報酬額に変えるだけで年間400万円近く手取りが増えることがわかりました。7年間で考えると、2,800万円の機会損失です。正直、言葉が出ませんでした。

役員報酬は「設定したまま」が一番危ない

役員報酬には、大きく2つの側面があります。会社側の「法人税負担」と、個人側の「所得税・住民税・社会保険料の負担」です。この2つのバランスを最適化することが節税の第一歩です。

報酬が高すぎると個人の税・社会保険料が重くなります。反対に低すぎると法人に利益が残り、法人税がかかります。どちらかに偏れば損をする構造になっています。

多くの社長が陥るのは「最初に設定した報酬をそのまま使い続ける」パターンです。売上や利益が変わっているのに、報酬だけが数年前のままというのは、税務的にはかなりもったいない状態です。

個人の税負担、年200万円の差が生まれる理由

たとえば年収2,000万円のケースと1,500万円のケースを比べると、所得税・住民税・社会保険料を合わせた負担額に年間150〜200万円の差が出ることがあります。もちろん会社の利益状況によって変わりますが、「どの水準が最もトータルで手元に残るか」を計算せずに決めている社長は少なくありません。

役員報酬は毎年期首から3ヶ月以内にしか変更できないというルールがあります(定期同額給与の原則)。「今期ちょっと変えようかな」と思っても、タイミングを逃すと1年待つことになります。だからこそ、決算前ではなく決算後すぐに翌期の報酬を設計する習慣が大切です。

もう一つの柱が「法人経費の徹底活用」

報酬の最適化だけでは、節税効果は年100〜200万円程度にとどまることが多いです。これをさらに大きくするのが、法人経費との組み合わせです。

代表的なものを挙げると:

  • 役員社宅: 会社が物件を借りて役員に貸与する形にすると、同じ家賃の多くを法人経費にできます。個人で賃貸契約するより手取りが増える構造です。
  • 出張旅費規程: 適切に整備すれば、出張時の日当(移動・宿泊費とは別の手当)を非課税で受け取れます。年間100万円以上を経費化できる社長もいます。
  • 社用車の活用: 経営者が事業で使う車両を法人所有にすれば、車両代・保険・燃料費を法人経費にできます。プライベートと兼用の場合は按分計算が必要ですが、それでも大きな節税効果があります。

これらを組み合わせると、年間数百万円を追加で経費計上できるケースも珍しくありません。

両輪が揃って「年500万円超」に届く

役員報酬の最適化(年200万円規模)と、法人経費の徹底活用(年300万円規模)。この2つが揃ってはじめて、年間500万円を超える節税が現実になります。

どちらか一方だけでは「それなりの節税」で終わります。両方セットで設計してこそ、劇的な手取りの改善につながるのです。

年500万円というと大げさに聞こえるかもしれませんが、年商1〜5億円規模の中小企業オーナーであれば、決して非現実的な数字ではありません。むしろ今まで適切な設計をしてこなかった社長ほど、改善の余地が大きいとも言えます。

注意点:自己判断で動くと逆効果になることも

「だったら今すぐ役員社宅を導入しよう」と動き出す前に、一点だけ注意してください。

役員への経済的利益の提供は、やり方を間違えると「役員報酬の現物支給」として課税される可能性があります。社宅の家賃設定、旅費規程の内容、社用車の利用割合など、細部の設計が重要です。ここを誤ると、節税どころか追徴課税というシナリオもあり得ます。

特に旅費規程は、社内規程として文書化されていないと税務調査で否認されるリスクがあります。「なんとなく日当を払っていた」では通りません。規程の整備と実態の一致が前提です。

自社の最適設計は、必ず税理士と一緒に行ってください。特に、これまで一度も役員報酬の見直しをしてこなかった社長は、今期の決算終了後すぐに相談の場を設けることをおすすめします。節税の機会は毎年3ヶ月間の窓口でしか動けません。今年の窓口を無駄にしないよう、早めに動いておきましょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。