先日、こんな相談を受けました。
年商3億円の建設会社を経営するAさん。「役員報酬は毎年見直しているんですが、なかなか効果が出なくて」というんですね。詳しく聞いてみると、役員報酬の最適化と不動産投資を、まったく別の話として考えていた。これ、実は多くの社長が陥っているパターンです。
「2つを合わせる」だけで税負担の構造が変わる
役員報酬と不動産、それぞれ単独で動かしていても、一定の効果は出ます。ただし、2つを連動させたときに初めて本来の力を発揮する——これを知っているかどうかが、10年・20年の積み重ねで大きな差を生みます。
組み合わせ戦略を理解するには、まず「個人課税と法人課税の税率差」を押さえておく必要があります。法人の実効税率は約33〜35%。一方、役員報酬が2,000万円を超えてくると、所得税・住民税・社会保険料を合わせた実質負担率は50%を超えてきます。つまり、稼ぎを「個人で受け取る」より「法人に残す」方が、税率が低い——この原則が戦略の出発点です。
法人で不動産を持つと何が起きるか
法人が不動産を購入すると、建物の減価償却費を毎年経費として計上できます。木造なら約22年、鉄筋コンクリートなら約47年にわたって、購入価格の一部を費用化できる仕組みです。
たとえば、1億円の収益物件(うち建物7,000万円・RC造)を法人で取得した場合、年間の減価償却費は150万円前後になります。実際の現金は物件購入時にしか出ていかないのに、毎年150万円を経費として計上できる——これが不動産の持つ独特の力です。
個人で同じ物件を持った場合、減価償却は所得税の計算に使われます。最高税率55%の方なら控除効果は大きいですが、法人の低い税率環境の中で使う方が、トータルの税負担が下がるケースも十分あります。どちらが有利かは個別試算が必要ですが、「法人購入×低税率」の組み合わせは選択肢として必ず検討する価値があります。
役員社宅制度が加わると、もう一段階変わる
ここからが、この戦略の核心です。
法人が取得した物件を、社長自身の社宅として活用する——これが「役員社宅制度」です。法人は社長に物件を貸し出し、社長は法律で定められた「法定賃料」を会社に支払います。この法定賃料、物件によっては市場家賃の1〜2割程度になることもあります。
社長が個人で月20万円のマンションに住む場合、手取りから毎月20万円が出ていきます。年間240万円です。これを法人が取得・社宅として提供することで、会社側は賃貸収入を計上しながら減価償却費を経費に落とし、社長個人の実質負担は数万円で済む構造になります。
この「減価償却費の経費計上」と「役員社宅による生活費の削減」が組み合わさると、個人と法人を合わせたトータルの税負担が、年間500万円以上変わるケースが出てきます。10年続ければ5,000万円の差——数字にすると、その重さが伝わると思います。
やってはいけない順番がある
この戦略には、注意点があります。
役員報酬の水準は定時株主総会で決定し、原則として期中の変更はできません。「今期は利益が出そうだから途中で上げよう」はNGです。事業年度が始まる前に、法人に残す利益の着地を見越して設計しておく必要があります。
また、社宅の法定賃料は税法上の計算式があり、これを誤ると「役員報酬の現物支給」とみなされて課税対象になるリスクがあります。不動産取得の際の借入や減価償却の扱いも、個別の試算なしに動くのは危険です。
「節税になると聞いたから」で動き出す前に、必ず顧問税理士と一緒に自社の数字で検証してください。
今期中に確認してほしいこと
もし今、役員報酬を「なんとなく」の金額で設定していたり、不動産を個人と法人で別々の文脈で考えていたりするなら、今期の決算前に一度立ち止まってみてください。
この組み合わせ戦略は、構造さえ作れば毎年自動的に機能する仕組みです。一度設計すれば10年・20年と積み重なっていく——それが単発の節税策と決定的に違うところです。顧問税理士に「役員報酬と不動産を組み合わせた試算をしてほしい」と依頼するだけでいい。まだ相談したことがないなら、今期中に動くことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。