先日、年商2億円の建設会社を経営する社長から、こんな質問を受けました。「余剰資金で不動産を買いたいんだけど、個人名義と法人名義、どっちがいいんだろう」。
シンプルな質問に見えて、実はこれ、資産形成において最も重要な分岐点のひとつです。選択を間違えると、10年後の手残りが数千万円単位で変わってくることもあります。
個人で不動産を持つと、税金に半分近く持っていかれる
年収2000万円を超えるような社長が個人で不動産収入を得ると、所得税と住民税の合計税率は最大55%になります。これは累進課税の仕組みで、すでに高い所得があるところにさらに家賃収入が上乗せされるからです。
わかりやすく数字にしてみましょう。1000万円の家賃収入があって、経費を引いた後の課税所得が800万円だとします。そこに55%の税率がかかると、税金は440万円。手元に残るのは360万円です。
「1000万も家賃をもらっているのに、360万しか残らないの?」と驚かれる社長は少なくありません。でも、これが個人で高収入を得ている人の現実です。
法人で受け取ると、税率が一気に下がる
同じ収入を法人で受け取った場合、話が大きく変わります。中小法人の実効税率はおおむね22〜34%程度。個人の最大55%と比べると、一目瞭然です。
さらに法人の場合、使える経費の幅が広がります。建物の取得価額を毎年費用として落とす減価償却費、修繕費や管理費、経営に関与する家族への役員報酬による所得分散——こういった手段を組み合わせると、課税所得をぐっと圧縮できます。
仮に同じ800万円の課税所得に対して実効税率25%が適用されれば、税金は200万円。手元に残るのは600万円です。個人の360万円と比べると、差額は240万円になります。
これが毎年積み上がっていくわけですから、10年で2400万円の差。これが「法人で持つ」という選択の意味です。
「3倍の差」はどんなケースで起きるのか
法人側で積極的に経費を計上し、役員報酬で所得を分散させると、法人の実効税率は22%前後まで下がることがあります。一方、個人側が最高税率55%で課税されると、同じ収入に対して手残りが2.5〜3倍近く変わるケースも実際に存在します。
もちろん、物件の規模や経費の状況、法人の他の収益によって差は変わります。ただ、「個人か法人か」という入り口の選択が、これほど大きなインパクトを持つことは間違いありません。
法人保有の注意点も正直に話しておきます
「法人のほうが常に有利」という話ではないので、デメリットも整理しておきましょう。
まず、法人の設立・維持にはコストがかかります。設立費用に加え、決算申告の税理士費用や法人住民税(赤字でも年間7万円程度)が毎年発生します。物件規模が小さいと、このコストが相殺してしまうことも。
次に、個人名義の不動産を後から法人に移すには売買や現物出資という手続きが必要で、不動産取得税や登録免許税が発生します。「今すぐ移したほうがいい」とは限らず、移転コストを含めた試算が必要です。
さらに、将来の相続や出口戦略との兼ね合いも重要です。法人保有の不動産は、売却時や相続時に個人とは異なる税務処理が必要になります。全体の資産計画から考えることが欠かせません。
これから始めるなら、最初の設計が命
もしこれから新たに不動産投資を始めるなら、最初から法人スキームで設計するのが最も効率的です。後から個人名義を法人に移すよりコストがかかりません。
すでに個人名義で物件を持っている場合も、追加購入のタイミングで法人を活用する「ハイブリッド戦略」を取ることができます。
大切なのは、「法人のほうが節税になりそう」という感覚ではなく、自分の年収・法人の収益・物件の規模を整理したうえで、具体的な試算を税理士に依頼することです。数字を出してみて初めて、どちらが有利かが見えてきます。
個人か法人か——この一択が、10年後の資産規模を大きく左右します。まだ不動産投資を検討段階なら、買う前に一度、法人スキームの試算をしてみることをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。